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■桜散るまで③ 【大神】【桜散るまで】

続きです。なんか少しほのぼのだったり、シリアスだったり、アホだったり、鬱だったり。いろいろ微妙なシリーズなんですが、とりあえず出しときます。今回はほのぼのアホ気味。

■桜散るまで ③

妖怪の軍勢との戦いから三月ほどが過ぎ。都は初夏の風が届く季節となった。

まだ人々は悲しみに沈んではいるものの、陰鬱な梅雨がようやく明けたおかげか、普段通りの明るさも取り戻しつつあった。
結界のおかげでますます都は栄えていた。

しばらく見張り付きできっちり養生させられていたウシワカが、久しぶりに本部に出て来た。
「あ、隊長!おはようございます」
「アハハ!」
皆といつもの挨拶を交わす。ウシワカは怪我もスッカリ直ったし。今日は天気も良いし。絶好の仕事日よりだ!等と明るく言っている。
…隊長は久々の外出にとても機嫌が良いようだ。羽衣がフワフワ揺れている。
「ワン!」
ウシワカの隣には、白い狼がいる。おそらくソレも原因だろう。
「ミーはこれから女王に会ってくる。アマテラス君を紹介しておかないと」
「はい、仕事はやっておきます」
もはや慣れた物。隊員達は請け負った。
「サンキュー。昼は戻るから」
ウシワカは歩いて行った。

「あれ、隊長は?今日からいらっしゃるって、聞いてたけど…」
建物に入って来た一人の隊員が言った。
「あ、今神殿に行かれた。何か用があったのか?昼飯には戻っていらっしゃるってさ」
どうやらその隊員は間が合わず、入れ違ってしまった様だった。
「うーん。じゃあ、昼まで待つか」
その隊員は、なにやらフワフワしていた。

一方、神殿に着いたウシワカは女王にアマテラスを紹介した。
「ワン!」
アマテラスは見境無くしっぽを振っている。

「「…」」

しばらく見合った後、何か通じるモノでもあったのか。
女王がニコニコとアマテラスを撫で出した。
「フフフ…お互い大変ですね。見張りお疲れ様です」
ウシワカは首を傾げつつ。必要っぽい報告をし始めた。
「ワン、クゥ」
「ほう、ほう」
しかしさっぱり二人は聞いていなかった。

…とりあえず報告が終わり。
ウシワカがさてそろそろおいとましようか、と腰を上げようとした。

「女王、お持ちいたしました」
丁度その時、侍女が部屋の外に現れた。…何かを持ってきたらしい。
「おお。入れ」

侍女が盆に積み上げて持ってきたのは、なにやら十巻ほどの巻物だった。
すまし顔の侍女は、ウシワカに読めとばかりに差し出すと、一礼をしてそのまましずしずと去って行った。ウシワカは首を傾げた。

「ウシワカ、お主に褒美が山のように届いています。これはその目録です」
女王が言った。

「えっ」
何気なく数巻きを開き、鶏百羽とか、どこかの土地とか、何かの塔とか…コレは一体何だろう?と首を傾げていたウシワカは、思わず声を上げた。

「都の貴族やヤマタイ一族、都人や果ては兵士の親類まで。今お主が読んでいるのは固定資産目録です。もちろん神殿からの褒賞も多少はあります。ついでに貴族の地位も与えておきました。目録全てにきちんと目を通して、しっかり管理するように。善意やら諸々で頂いたモノはもはや返却は出来ませんので、そのつもりで」

「…ちょ、コレ、全部かい!?鶏とか…山とか!そんな物、どうすれば!」

…ぶっちゃけ、いらない!!

「クイーン!ウチにはアマテラス君が居るんだよ!」
ウシワカは必死に訴えた。

しかし、柳に風、のれんに腕押し。
女王はとても嬉しそうに、…まるで自分が褒美を受け取ったかのようにニコニコ微笑んでいた。

「…お主はそれだけの働きをしたのです。心配せずとも、いらない物は売ってしまえば良いでしょう。一月後、神殿に御用商人達をまとめて呼びますから。それまでに必要な物には丸、売ってしまいたい物には罰を付けておいて下さい。ちゃんと忘れずに全部持って帰るのですよ。ふふふ」

…女王からの宿題を出されてしまった。
はっきり言って、バツばかりになりそうだが…ソレすらめんどくさい。
「ハァ…」
ウシワカは頭を押さえ、ため息を付いた。
「クゥーン?」
アマテラスが寄ってきて、少し巻物を覗き込んでから、興味無さそうにあくびをして寝転んだ。
「ハァ…オーケー。やるよ」
バツを付けるだけなら…仕方無い。
ウシワカが、広げた巻物をクルクルと結っていると。

「女王様、お持ちいたしました」
またしても、侍女がやってきた。
「おお、入れ」
「…」
ウシワカは黙り込んだ。

…かなりの量だ。侍女も三人に増えている。

ウシワカの周りはもちろん、女王の近くまで、巻物や何か薄い冊子のような物が積み上げられる。ウシワカは考えた。こんなに多いとなると。
…これは自分とはきっと、絶対に、無関係な件にちがいない!ああ良かった…。

「ふふ。実はお主に縁談が、山のように来ておるのです」
ヤレヤレ、と言う女王は、やっぱりニコニコ笑っていた。

ウシワカは今度こそ床に突っ伏した…。


■ ■ ■

「ハァ…ベリィ…タイラード…」

とりあえず縁談やら養子縁組のお誘いは全て断ってもらうことにして、ウシワカは褒賞目録を包んだ重たい風呂敷を片手に持ち、宿舎の方へと戻って来た。
アマテラスは、朝から出かけていたイッシャク君が戻ってきた途端に、二人で飛び出して庶民街に遊びに行ってしまった。
そう言えば、そろそろ昼食の時間だ。この風呂敷を部屋に置きに行っても良いが…。
午後から宿題もあるし、先に食事を済まそう。ウシワカは包みを持ったまま食事場へ入った。

広い食事場で、邪魔な巻物を床に置き食事を取っていると。
「隊長、ご一緒して良いですか?」
五人ほどの部下がやってきた。
「、オーケー」
ウシワカは、その中の一人を見た時に、ピンと予言が来た。
しかし。おそらく…こういうときは、向こうが言うのを待つべきだろう。
皆が席に着き、食事を待つ。
ウシワカがごちそうさま!と食べ、係の者が膳を引き終えると。
モジモジした様子の一人を、隣の者がせっついている。曰く。
「おいもう今、言っちゃえよ」
…仮にウシワカに予言が無くとも、このモジモジ君が何が言いたいのか、分かっただろう。

「隊長、実は、この度…」
やはり、縁談がまとまったと言う話だった。

昔、ひょんな事で出会い、それからお互い気にはなっていたんですが、相手は貴族のご令嬢で、正直自分とは身分違いで…親御さんはそう言った事に厳しいし、二人とも無理なモノとあきらめていたんです。

「でも、…先日の戦いから、ちょっと向こうの感触が変わって」
その隊員はどぎまぎしつつ、そう語った。

あの戦いで活躍した陰特隊はいまや、都を守る親衛隊と同じくらいに評価されるようになっていた。要するに『タダの、…怪しい集団!』から、『都を守る少し変わった集団か』と言う認識になったのだ。それはまさしく右肩上がりに、と言った様相だった。

「いやぁ、まさか本当にあの子と一緒になれるなんて…」
隊長のおかげです。と頭を搔きつつ言った。

「へぇ!それは、おめでとう!」
ウシワカは微笑んで言った。実際嬉しかった。
…彼の命がけの働きが報われたのだ。
この者は若いのに、自分のスパルタにもよく耐えた…。

「まあ、隊長は分かっていらっしゃるかもと思いましたが、一応ご報告を」
それから運ばれてきた食事を食べつつ、ウシワカは桜餅を食べつつ、日取りなど色々な事を話した。良ければ来て下さいと笑って言われた。
ウシワカは少し先の未来を覗き見て。その日は大丈夫だし、じゃあ行くよ。と答えた。

その後、巻物を適当に部屋に放こんで、休んだ間にたまった机仕事を片付けに掛かった。
残しても仕方無いので、珍しく本気を出してさばく。
「おお…隊長が仕事を!見事なお手並みです!」
最年長の隊員が感動していた。
「明日は雨だ!!」
「わーい!今日は定時に帰れるぞ!」
「イヤ、コレはもっといくって!」

ウシワカの本気により、仕事の山はあっという間に片付いた。勢い余って他の隊員の仕事も片付けてしまった。…故意に渡された気もするが。
「さて、今日はもう帰ってオーケーだよ」
「ハイ!」
皆さーっと引いていく。…見たい芝居でもあるのだろうか。
「あ、ユーはちょっと待って」
ウシワカは最年長の隊員を引き留めた。
「はい?なんでしょう」
「今日はもうする事も無いし。良ければ、少しあのガールの様子を見に行っても良いかなぁ?」
ウシワカはすぐ帰るし、お邪魔じゃなければ。と笑って言った。
「おお、是非来て下さい。あの子も喜ぶでしょう。折角です、ご一緒に夕飯も…」

話はまとまり、二人は都の門外に出た。
程なく、立派な井戸やそれなりに大きい薬草畑がある家が見えた。
辺りにも数件家があったが、この家が一番大きい。
先の戦いの折、ここの集落には結界を張り、住人達は都へ避難させていた。

隊員は、昔は家族で住んでいたが、妻には先立たれ、子供は遠くに婿養子に行ったので部屋がすっかり開いてしまっていたのだ、と笑って言っていた。
「あの子は中々賑やかくて、楽しいです」

「お帰りなさい!おじい様…!あっ陰陽師様!?お久しぶりです…!」
まさにその言葉通り。元気の良さそうな少女が出て来た。
「ユー、元気そうだね」
ウシワカは久しぶりに会った少女がずいぶん大きくなっていたのに驚いた。
考えてみたら二年近く預けたまま、さっぱり会っていなかったのだ。

少女は季節の折に、故郷の街長や祈祷師に手紙を出しているらしい。
修練の状況やら、都の感想やら。妖怪の出没状況などもついでに書いて送っている、と言っていた。
「それは良い。隊やミーからも便りを出してはいるけど。どうしても堅くなりがちだからね」
向こうから届いた手紙も見せて貰った。

「えーと?」

まだ夏の間だけだが、カムイとの取引が再開された事、秋に街長が釘を踏んづけて怪我をしたこと。冬に祈祷師が雪道で転んで足の骨を折ったこと…。他にも色々多数。

…ウシワカは少し北の守りが心配になって来た。
たまには様子を見に行った方が良いのかもしれない。

「…まあ、もう怪我は直ってるだろう」
「早く一人前に、ならなきゃって思います…」

さらに色々な話をしていると、突然、思い出したようにウシワカが手を打った。
「そうだった、今日来たのは…これをユーにと思って」
ウシワカは何かを袖から取り出した。

「わ、可愛い!」
ウシワカが取り出したのは、花の刺繍の入った小さなお守りだった。
小さな鈴か付いている。
「養生している間に、作ってみたんだよ。コレに近い物を今度、ナカツクニで流通させようかと思ってる。量産するとなると、もう少し大きくなるだろうけど。ユーの意見が聞きたくて。図案とか、どうかな?」
首を傾げて聞くウシワカに、少女は嬉しそうに笑って言った。

「すごく可愛いです。根付けに丁度良いと思います」

隊員もしげしげとお守りを見つめた。
「さすがはウシワカ殿…お見事な護符です。これならよほどの妖怪でも近づけないでしょう。女子供の旅にはもってこいですな…この刺繍もなさったのですか?」
ウシワカは苦笑した。
「アハハ。ミーに出来ると思うかい…?ミーが作ったのは中身だけだ。絵が凄く上手な知り合いがいてね。彼に図案描いてもらって、それを女王が縫ったんだよ」

こともなげに言われた言葉に、少女が驚いた。
「ええっ!女王様が…!そんなお自ら!?こんな綺麗な…」
少女は感激している。
凄く嬉しそうだ。お守りを胸に当てて頰を赤らめている。
「この子は、とても女王様に憧れているんです」
そう言われ、ウシワカは笑った。

女王が幾度か見舞いに来たときに、チクチクと丁寧に縫っていた、とウシワカが言ったら、少女は何故か顔を赤らめていた。
そして「是が非でも、お礼を言っておいて下さい!感激しましたから!!」と力強く言われた。

「ミーの分もあるし、女王も持ってる…そして。コレ」
ウシワカが自分の分を見せる。紅白のソレはいささか派手だった。そして、もう一つ。
「少し地味じゃないかって、言ったんだけど…コレはユーの分」
「…!」
まさか自分に渡されるとは思っていなかった、その隊員は目を見開いた。
「…一生、片時も離さず持ち歩きます!」
「アハハ、大げさだなぁ。皆には内緒だよ。ユーにはこの子を預かって貰ったりしたしね」
そう言って、少女の頭を撫でる。
「くっ…ウシワカ隊長…!」
年甲斐も無く、その隊員は涙ぐんだ。

その後、世話人の女性が作ってくれた夕飯をおいしく頂いて。
ウシワカは軽く手を振って宿舎へと戻って行った。

 

■ ■ ■


…。
ウシワカは、都に入る直前で、ふと立ち止まった。
そして苦笑する。

かつて自分は、あの北の守りの要になる少女を一人にし、ここに連れてくる為に、彼女の故郷の人々を見捨てた。
…いや。自分は、無数の命よりも大神を取ったのだ。

あの日の朝。
カムイで双魔神に挑む大神と青年。
それを、ほんの少しだけ手助けする自分の姿を予見した。
そして自分はカムイへと向かった。
しかし、道すがら。
今まさに自分が進む眼下の村々が、妖怪に襲われる光景が見えた。

自分がカムイに行かなければ…多くの命が助かるだろう。
自分がカムイに行けば。その間に人々は食い尽くされてしまう。

…もちろん、そうしなければいけない。
それは当然すぎる選択だった。
捨てた可能性を気に留めるなど、月に居た時にはした事が無かった。
だが、タカマガハラで大神に会い、天神族の優しさに触れ。
彼等や大神と関わるようになり。
予見を信じて、正しい事をしたつもりで彼等や、タカマガハラあっさり、滅ぼしてしまって以来…。
そしてナカツクニに落ちてこの都で人と沢山関わる様になってから…。

時折、いや。実際は頻繁に。…感情が制御出来ない。

…予言者としてあるまじき心の弱さに憤る。
月に居たときのミーはこんなに弱かっただろうか。

このままでは…彼等の事を。ミーの愚かな行動のせいで、苦しんで、食われて死んだ。
天神族のことを忘れてしまうのでは無いか…?

そう。もしかすると、この憤りや不安定な精神は、その予兆なのではないだろうか。

…イヤ。そんな事あるわけがない。ミーの罪。それを忘れるなど。
在るわけがない。あっていい訳が無い!

そう自分に言い聞かせ、彼は闇夜でもなお賑やかな都の門をくぐった。

■ ■ ■

自分の部屋に戻ったウシワカは目録を広げ、イッシャクと宿題に励んでいた。

イッシャクには、欲しい物があったら丸を付けても良いと言って半分渡した。
彼は根が真面目だし、いらない物は貰わないだろう。
「あ!イタチ面相筆!あと顔料…おお!…当然丸っと。桜餅か…コレはアマ公にと」
…このデコボコ隊の活躍も、褒められて当然だ。
「えーと、芝犬?まあ貰っとくか」
「ドッグはノー。アマテラス君がいるでしょ」
「チッ」

アマテラスはすでにぐっすり眠っていた。

「あ、…まあ、まだいいか」

イッシャクがそれなりに楽しんで、また少しうんざりしながら、宿題と格闘していると、ウシワカがふと呟いた。
「ン?何だ予言か?」
イッシャクが顔を上げた。

しかしウシワカは首を振った。

「…イッシャク君。ミーは予言が出来るから…たまに、先の事をはなしすぎてしまいそうになる」
「悪い事か?」
「ノー、些細な事だ。ミーには今日会った隊員が、陰特隊を除隊した後にミーのすすめで祈祷師を育てる、寺子屋のような物を作る未来が見えている。…ミーはいつまでもここに居られるわけじゃ無いから、彼等の、ナカツクニ独自の文化に手を加える気は無い。陰陽術の他に、祈祷の系統も残して行く必要がある」

「んん?…要するに、自分達に出来る事は任せた、って事か?」
イッシャクが的確に読み取る。
ウシワカの話が回りくどいのはいつもの事だ。
ウシワカが笑って頷く。

「イエス。でも、ソレを今、現役の彼に言うのは良くない」
「…まあ、さっさと辞めろって言うようなモンだよな。うっかり忘れてて逆に良かったんじゃねえか?」

「そう…。ソレにあの者には予見の力も少しは有る…から、まあ良いし。また言えば良い」
ウシワカは、何かを考え出してしまった。
「何考えてンだ?」
イッシャクが聞いた。こう言えば、ウシワカは自分には打ち明けてくれる。…話せる事だけだが。

…フッ…、正直、ここまで来るのにかなり苦心したぜ…。
遠い目をして、悟ったように待つ。

「もしかしたら、何かあるんじゃないかなぁ?」
「はぁ?」

しかし、イッシャクが彼の言を理解出来るかは、また別の問題だったようだ。

「イヤ、イッシャク君。いつか新しい術が創れるかも、と思ってね。予見を根底から覆すような…革新的な…ゴニョゴニョ…別の角度からもっと突き詰めてみようか…」

「ハァ…止めとけ。また面倒臭い事になンのが、落ちだ」
楽しそうにブツブツ呟くウシワカに、イッシャクが呆れて言った。
「もう少しで閃きそうなんだけど…」
「さ、宿題、宿題。お、春本百冊!?」
「それもノー!って言うか誰からだい!?」

そして結局。
ウシワカはイッシャクにこの日話したことを、突き詰めていくのをスッカリ忘れてしまった。
その後しばらくして持ち上がった大騒動のせいで…。
 
■ ■ ■


その頃からイッシャクは、時折都に来る以外は、ほとんどアマテラスと共に旅をし。その記録を絵巻に記すということをしていた。彼は、ナカツクニやナカツクニの遺跡の詳細な地図の作成にも取りかかっていた。

一方、ウシワカの周りでは、在る者は家庭を持ち。また陰陽師という職柄故、在る者は独り身を貫くと決め。古参の幾人が退き。また新しく幾人が入り。
とにかく騒がしく、妖怪退治に飛び回るのも忙しい。

ウシワカが今日も女王の元へ、いつもの報告に行く。
出先からそのまま来たので、部屋に飛び込んで来た鳥に侍女達が驚いていた。

「…ウシワカ。笛を…皆に聞かせてくれませんか」
女王が微笑んで言った。美輪湖がよく見える。女王は回廊に立つ。

数人の侍女が開け放った広間でこちらを、何か心配そうに見つめている。

「…?オーケー」
特に断る理由も無いので、欄干に乗ったまま笛を奏でる。

ふと思い立って、いつもと違う曲にした。
はるかな、タカマガハラの調べ。
この曲は、なぜこんなに悲しげだったのだろう…。

曲が終わり。
「ウシワカ、お主は…わ」
女王が、何かを言いかけ。一度切った。
「…!」
侍女達が、なにやら身を乗り出す。
女王はコホン。と咳払いをして。言った。
「妾の事をどう思いますか?…その、容姿とか」

…あぁ…。
何か奥の侍女達がため息を付いた。しかしまた身を乗り出す。

「ビューティフルだと思うけど…?」
実際、女王は美しかった。
「ええと、そうでは無くて…」
女盛り、と言うのだろうか。幼さが抜け、成熟し。しかし清らかさを残している…。
何が言いたいのかピンと来ないが…。

「…本当に綺麗になったね」
ウシワカはふ、と微笑んだ。…後で思えば、これが大変まずかったのだが。
この時の彼は多少人生に疲れていて、全く気がついていなかった。

真っ赤になった女王に、あわてて、無礼を謝って。
そして後は、ごく普通に分かれた。


その翌日。
「グッドモーニング!」
久しぶりに朝から仕事場に行った。

「た、隊長…」
…場の空気がおかしい。
「妖怪でも出たのかい?」
ウシワカは言った。朝から妖怪騒ぎでもあったのだろうか。
「…あの。都中で…」
一人の者が、言いにくそうに言った。
「都がなんだい?」

「隊長が、女王様と結婚するって…お噂が。本当ですか?」
一人の者が、はっきりと言った。
「オイ」「ちょ!」「待て!!」
周りの者は焦っている。
ウシワカは、珍しく、本当に驚いたようだった。

「なんでも、昨日女王に直接会ってご求婚なされたとか…」
「っ?…!???ハッ!!しまった!!!アレ、そう言う意味だったのかい!!!」
ウシワカが大声で叫んだ。
「隊長!?」
「うわ!あの貴族の耳に入ったのか…!あああ、おしゃべり貴族め!!」
どこかを覗いてさらにうろたえる。

「まさか、隊長、昨日…神殿にお泊まりにでもなられましたか?」
隊員の一人が、ウシワカの様子を見て、勘ぐって言った。

もしかしたら、このナカツクニの常識に疎い青年は、女王に手を出して、そこを貴族に目撃され。方々に噂を撒かれて責任を取らされようとしているのではないか…?
あるいは、イケメンの隊長を妬み、都から追放しようとする、陰謀かもしれない…!

「??…?そんな訳はノー!…っ…どうして気がつかなかった…?あの時もっとはっきり断れば…」
あんな事にならずに済んだのに?とかだろうか?
…やはり、やってしまったのか。泊まりで無いなら…日帰りか?…それは酷い。
この人は極端に浮いた話が無いから、いつかこうなる気がしていた…。

「…イヤでも、断って良いモノなのかい!?何か作法でもあるとか!?」
女王の必死の回りくどい求婚を…断る為の作法が!
混乱をしていたウシワカはそこを言い忘れた。
もしかしたら、自分はとんでもないミスを犯してしまったのかも知れない…!
都を追い出され、ソレでアマテラス君が天に帰れなくなったら、どうしよう!!?

その青ざめた様子を見ていた隊員達は、「…もうコレは確実にヤったんだろう…」と思いこんだ。
まあ、隊長の株は最近うなぎ登りだし。女王とは仲も良く、かなりお似合いだ…隊長さえ丸め込んで、押せ押せでちゃんと告白させれば、大丈夫だろう。…イケメンは得だ。
…などと思いつつ、さっそくウシワカを丸め込みにかかった。

「…隊長、あきらめましょう?…結婚はいいですよー!」
「女王様、おかわいそうに…」
「おとなしく責任取った方が…下手したら、いや確実に去勢されて死罪です」
「えっ」
ウシワカが去勢と聞いて固まった。

「…嘘…まさか…!!ナカツクニってそんな怖い所なのかい…!?」
ウシワカはとんちんかんな事を言っている。
よほど平和な所に居たのだろう…。
一人が言った。
「女王への姦通。間違い無く死罪です。陰特隊も高確率で取りつぶされます。ご決断を」
最後通牒のつもりで、隊員の一人が言った。
しかし。
「え…?姦通!?誰が!」
「「?」」
思ったのと違う反応が返って来た。
きっと真っ青になって、震え出すか、笑って責任を取ると言うかのどちらかだと思ったのだが…。

「???、もしかして、ミー??まさか…ミーが女王を…抱いたとでも思ってる?」
皆が頷く。
「そうでしょう?」
「!!っ…ハァ!…、何だ…びっくりした…タダの誤解だよ…。昨日、女王がミーに…いや、やっぱり止そう…とにかく何も無い…」
ウシワカは、長椅子に深く座り込んだ。

「こんな時はどうしたら…。シット!!…肝心な時に予言は役に…。仕方無いなぁ…」
ウシワカおもむろに笛を取り出し、立ち上がった。
そして、くるっと回ってビシッとポーズを決める。

「人の噂も七十五日!!いや、ミーの潔白分かるまで!!…グッバイ!」

言った途端に、ウシワカはその場から忽然と消え失せた。

ウシワカは、逃げた。

「…隊長…情けない…」
隊員達が項垂れた。

〈おわり〉 

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