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絵、時々文章なブログ(姉)

sungenのブログです。pixivデータ(主に文章)の保管用ブログ。オリジナルイラスト、小説がメイン。


sungen(pixiv genペア)のブログです。


アート、デザイン、漫画、イラスト、小説について語ったり、作品をアップロードしたりします。
漫画、絵、文章を書きます。二次創作は大神。
長編小説はヘッダのシリーズまとめから探すと楽です。







■箱舟ヤマト35 ナカツクニ墜落【大神】【長編】

■大神(長編) 箱舟ヤマト(大神) 小説

百年前の神木村がそっくりさんばかりだったので、きっと×百年前のカムイもそうだと思う。

…という思いつきネタを、ようやく出すことが出来ました。
墜落時のカムイを夏にしたくて蝕の設定とか無理に考えましたが、別に「落ちたら夏でした☆」でも良かったのかも…。

※あと二話は短いので、これがラストの話と言っていいと思います。

 

■方舟ヤマト35 ナカツクニ墜落



「おい、あれ…」
ある青年が、空を見上げる。表情は仮面で見えない。

なにか、空に黒い点が見える。

「…!?おい、落ちてくるぞ!!逃げろ!!」
もう一人が、立ち止まった青年の袖を引く。

辺りにすさまじい音が響き渡った。木々がなぎ倒される。
ラヨチ湖の水が、あふれる。
青年達は、それぞれ蒼と白の獣に転じ、近くの丘を駆け上がる。
「くそっ!!」
まさに間一髪、巻き込まれずにすんだ。

「長老達を呼んでこい!!」
「ああ!!」
蒼い獣が駆け出した。

「何だっ…、これは…!」

カムイは夏の終わりだった。今は緑の生い茂るこの地に、まさかこんなモノが…!
白い仮面の青年は土煙を巻き上げる物体に近づいた。
「これは、やはり船か…!?」
その時、ぴしゃ、と言う小さな音が、聞こえた。

何か、水面に、落ちた?
「人!?」
思わず駆けだした。
「オイ!大丈夫か!!?」
水辺に投げ出された、その人物は全身血まみれだった。
引き上げる。
「…」
意識がある様だ。揺すってみるが、しかし目を見開いたまま、微動だにしない。
落下の衝撃、では無い。この量、返り血…!?
「しっかりしろ!オイ!」

「喰われた…」

つぶやき、いきなり、立ち上がった。
「逃げろぉぉぉぉ!!!!」
大声で叫んだ。

「うあぁあああああっーーーーーーーーーーー!!!」
そして、辺りに、その人物のすさまじい、悲鳴が響き渡る。

そして、ゆっくりと、箱船が、揺らめいた。


■ ■ ■


「早く!」
一方その頃、蒼い獣は、長老ら数名の大人達を伴いラヨチ湖に向かっていた。
「あれは!!一体何なんだ!?」

「来るな!!逃げろ!!」

しかし、反対側から、青年が駆けてきた。何か背負っている。
「オイ!あの煙は!?」
空をどす黒い煙が覆っている。
「早く!!!化け物が!!喰われるぞ!!村のみんなを!!」
青年がそう叫んだのは、先程聞いたつぶやきが耳に残っていたからだ。
しかしそんな事に思い当たる余裕は無かった。
辺りに、轟音がとどろく。
イヤ、何かの雄叫びだ。それが重なりあって轟音になっているのだ。
何かの大群が押し寄せてくる!
皆、全身が泡だった。弾かれたように駆け出す。

「早く!どこかに避難するんだ!!」

「うわぁああ!?」
最後尾を走っていた者が、何かに刈り取られた。
「くそ!!くそ!何処に逃げれば!!?」
白い仮面の青年が叫んだ。

「ヨシペタイ、へ…」
聞いた事の無い声がした。
ヨシペタイ!?

そうか、胃袋の森!コロポックルの里の周辺、あそこなら!
「村から、ヨシペタイに!!!あそこしかない!」
反射的に蒼い獣が叫ぶ。
あの、量。
アレが何かは分からない。だが、助かる者だけでも走らなければ。

「みんな逃げろ!!!化け物が!」
村では、何かが落ちてきたのを見た女達が、幸運にも外に出ていた。
すでに逃げ惑っている。空を飛んでいる黒い何かが見える。
「早く!ヨシペタイに!」

全てを飲み込み、惑わす。そう恐れられているあの森。
あそこなら、あるいは。
皆必死で走った。他の者を見る余裕は…なかった。


「ぜぇ、ぜぇ…」

暗い森をどう走ったのか、村の者達はかなり奥までやってきた。
…幾人かとはぐれてしまった。
化け物の大群も、ココまでは追ってこない様だ。だが、もっと奥に行かなければ。
もはや感覚が狂い、鼻も当てにならないが、外よりマシだ。
「何なんだっ!!アレは…!!?」
一人が叫んだ。
仲間の悲鳴が、耳に付いている。逃げる途中何人も…!
長老も、喰われた。運のあった者、足の速い者だけが残ったのだ。
「くそ!!」

「おい!!しっかりしろ!死ぬな!」
白い仮面の青年が、倒れた人物に叫んでいる。
彼は、人の姿のままこの人物を背負い逃げ切ったのだ。
蒼い獣が護った事もあるが幸運としか言いようが無い。

蒼い獣が近寄り、目を細め傷を見る。
ヨシペタイの森は薄暗く、オイナ族の目もほとんど利かないが、大けがをしているのは間違い無い。人に戻り、何とか止血をしてやる。
「こいつは…?まさか、あの船にいたのか?」
「ああ、化け物があふれだす寸前に飛び出してきた…。喰われた…と言っていた。おそらくこの人物だけが生き延びたのだろう…」

「そう言えば、ヨシペタイって…言ったのは、この人か?」
他にも声を聞いたらしい物が言う。
「なぜ、カムイの地名を知っている…?ナカツクニの者か…?アレは何なんだ?」
皆が首を傾げる。
瀕死の男から答えが返って来るはずも無く。
しかも、今はそれどころではない。進まなければ。
残った者は、男が十七人、女は八人だった。そして子供が、三名。
あの状況で、よくもこれだけ逃げられたものだ。
村が気がかりだ。まだ生き残っている者も、…いるかもしれない。
しかし、今は歩かなければ。この魔の森を。
早くしなければ、唯一の事情を知る落人が死んでしまう。

こちらで、道は本当に合っているのだろうか…。

在る者のおぼろげな記憶を頼りに進む。

同じような枯れ木、岩、岸壁…。
もしや先程から同じ場所を回っているのでは無いだろうか…?
それでも彼等はひたすら歩いた。


「オイ!!こっちだ!」

そしてついに、一人が、その場所を見つけた。
みんなを呼ぶ。
その肩には、小さなコロポックルが跳ねている。
「ああ!助かった!」
誰ともなく、安堵の涙を流した。

コロポックルの長老が秘宝を使い、皆を村に受け入れた。
森で迷った者も、総出で探し出してくれた。

中には怪我をしている者もいたが、一番酷いのは全身血まみれの…はっきり言って、頭から血をかぶったか、血の海に浸かったか…、手は血まみれ、顔は血だらけ。
そんなぞっとする様子の男だけだった。
何か布の様なもので頭を覆っている。その布も酷く裂けて、血に浸したようだった。

「これは…!?」
手当の為にその布を外すと、金色の髪が流れ落ちた。
彼は、一体何処の者なのだ?
皆が顔を見合わせた。

それから、一月。
死の淵をさまよっていた男が、目を覚ました。

側には、コロポックルの女達がいた。


「…、…」
何か言おうとしている。
しかし、声が出ない様だ。無理もない。一月も何も、綿にしみこませた水くらいしか口にしていない。
何故生きているのか、全く分からないほどなのだ。

「言葉が、分かるか?」
やってきたコロポックルの長老が、尋ねた。
その者は、頷いた。
どうやら、声が出ないだけらしい。
「もう少ししたら、話せるようになる。頑張るのじゃぞ!」
その人物は、また眠ってしまった。

「他の村は…ダメだ」
近隣の偵察に出たオイナ族の屈強な戦士が、命からがら、帰って来た。
この辺りの村は、全て死に絶えていた。
自分達は、ここに逃げ込む事ができて、本当に幸運だったのだ。
ウエペケレは壊滅していた。
誰一人、生き残ってはいなかった。

もっと早く、外に出ていれば…。いや、妖怪がわき出たラヨチ湖のほとりの村では、希望は無かっただろう。悔やんでも悔やみきれない。

天から落ちて来た船は、穏やかにそこあった。

ただ、カムイは妖怪の跋扈する大地になってしまった。
もしかしたら、ナカツクニまで厄災が及んでいるのかもしれない。

これから、どうすればいいのだろう?事態の深刻さに、長老の元に集まった、みなの表情は暗かった。

「…ま、てらす」
その時、男がつぶやいた。
「おい、話せるか!」
長老の側にいたコロポックルの青年が、駆け寄った。
「…オオカミ、を探さなければ…」

「…狼?おい、ソレがなんなのじゃ?」
コロポックルの長老は、首を傾げた。そして必死で聞いた。
しかし、それきり男は黙り込んでしまった。

そして、それに初めに気がついたのは、若いコロポックルだった。
彼は、何かと男の様子を見ていた。
生来の気質なのかもしれない。

ふと部屋に顔を出す。


その男は、消えていた。


■ ■ ■




ヤマトは、墜落した。

…自分は、助かったのか。
目を覚まして、いや、目が覚めたことに驚いた。

やさしい彼等を差し置いて。生き残ってしまった。
頭が、焼けそうだ。
あの光景が、よみがえる。血の臭いが、ずっとする。
悲鳴が、絶えず響く。

妖怪が船からあふれ、列をなす光景も、目に焼き付いている。
その時流れ込んできた、大量の予見も。

頭が、熱い!
この國の人が、喰い殺される映像が一気に見えた。
平和な地を蹂躙する黒い影。

タカマガハラに攻め入って来たヤマタノオロチは、予言の者の力が無ければ、倒せない。彼が生まれるのは…百年後。
それまでに、生け贄が必要だ。
生け贄?何のために?
何の役にも立たないミーの予言なんて、誰が信じる?
なぜ、あんなまがまがしいモノに気がつかなかった?
何処に潜んでいた?

とこやみの、すめらぎ

自分を…見つめた、あの生き物。
嬉しそうに、揺れた、あれが全ての元凶だ。
なぜ、あの舟に、アレが…!

箱舟ヤマトは救いの舟では、なかったのか!!!

視界がにじむ。悔しさか。
行かなければ。
アマテラス君は…どこに?

立ち上がった。


■ ■ ■


ミーはただ、歩き回った。
行く当てもない。ふらふらと。

気がつけば、足はヤマトに向いていた。
船を見る。

自分が、月からこの船を運んだ時、すでに妖怪が積まれていたのだ。
入り口は閉じ、もはや乗り込めない。

地に落ちてしまった。
神を地に落としてしまった。

みんなを殺してしまった。
助けられなかった。

地上を汚してしまった。
それらは全て、ミーの責任。

…今、ここで…。

懐から脇差しを取り出し。のどに当てた。
そのまま、刃を進める。


■ ■ ■


「テメー!待ちやがれ!!!」
石が頭に当たった。
「うわっ!」
脇差しを取り落とす。
「何ふざけたことしてんだよォ!!!拾った命、粗末にすんな!!」
ピョンピョンと鞠の様にはねる、何かに怒鳴られた。
「ゴムマリ…」
「あァ?」

また、見えた。
彼と、アマテラス君が、旅をする様子が。
そうだ、アマテラス君…!?
「アマテラス君を知らないか!?」
男は彼をつかんだ。
「ぐぇ!ンだよ!そいつはオオカミってヤツか?…まさか、とは思うがよォ…白い犬か?」
「見たのか!!?どこで!!」
男は彼を振り回す。
「オイ!止めろォ!…絵だよ!先祖が描いた、絵巻の、天の國の神様!…オイラは数えて六代目の天道太子、イッシャク様だィ!」

「絵…?…天道太子…!聞いた事がある…」

タカマガハラに点在する幽門の記録を見せてもらった際に、その記述があった。
かつて、タカマガハラの者より幽門扉の管理を任せられた、大神の信仰を伝道していく者。
ナカツクニに何か大神との関わりがあるのか…?と思い調べたが、記録は曖昧だった。
しかし、…こんな小さな虫ケラが!?

「ン?…聞いた事があるってェ、何処で聞いたんだァ?…まさか、お前…、いやそんな、あれはジジイの与太話だしなァ…さすがの俺も…」
イッシャクは何やらブツブツ呟いている。

「ユー!ずいぶんスモールだけど、絵を描けるのかい!?」
ウシワカは、慌ててイッシャクを地面に置き、聞いた。

「…な!…描けるよ。村一番だったから、なンか選ばれちまったんだィ!」
「描けるのか…!」
コレは、僥倖かもしれない。
黙り込んでしまった、謎の男に、イッシャクは怒って言った。
「テメー!助けてもらって、怪我したまんまで!事情も話さず、礼の一つもなしに消えるなってんだ!みんな捜してっぞ!!オメー、そもそも、どっから落ちて来たんだ!バケモンつきでよォ!…まさか、…タカマガハラ…か?」

その言葉に、冷水を浴びせられたようになった。
彼の聡さに驚いたと言うのもあるが…。
「そうだ」
「へぇ!どんなとこでィ?…本当に、神様ってのもいるのか!?」
「タカマガハラは…、滅亡、…した…」
改めて思い起こしてしまった、その事実に。
「ミーのせいで」

「…アマテラス君」
大神を…探さなければ。立ち上がって。
「…アマテラス君!!」

「…!」

でも、何と…詫びれば良いのだろう?
何と伝えればいいのだろう?

鼓動が早くなる。息も荒く…。冷や汗が止まらない。
いや、体が熱いのか?
そして、ぐらりと視界がゆがんだ。

「オイ!大丈夫か!いきなり倒れんな!」
イッシャクは突然倒れ込んだその男の周りで飛び跳ねた。
衣服に血がにじんでいる。

「おい、大丈夫か!」
ウエペケレの仲間がやってきた。


■ ■ ■


ポンコタンに戻ったイッシャクは、腹を立てていた。
「全く、コイツはよォ…倒れやがって!ムカツク!」
「イッシャクよ、この者の事で、何か分かったか?」
長老が尋ねる。
そこには、カムイの白い面の青年と、その友がいた。
白い面の青年は、初めに見つけたこの男の事を、気にかけているらしい。
もう一人の青年は、黙ったままだ。

今は彼等と同じ大きさのイッシャクは、その面々を見つめた。

「…、イヤ、死のうとしてたから、説教してやった。そのうち傷が開いて、ぶっ倒れやがった」
彼はとっさに嘘をついた。
自分の勘が告げている。コイツの素性を、簡単に話してはいけないと。
特にウエペケレの者に知られては、いけない。彼は、いや、彼も。被害者でなければいけない。突然妖怪に襲われ。そして、このカムイに落ちた。
その中で、奇跡的に生き延びた。運の…良い者。

みんな喰われてその中で、一人だけ無事だなんて、ただ者じゃねぇ…だろうしなァ。
さっきも…少し訳の分からない言葉を使っていたが…もしかしたら自分のせい、と言ったのかもしれない。

天道太子。名前だけのその役目に自分が就いたのは、少し前のことだ。
全くの絵空事だ、眉唾モノと思っていた。しかし、コイツは神がいる、と言う口ぶりだった。
探すとも言っていた。…それだけは、彼等の協力が必要だった。

「なぁ、おめぇらは…もうウエペケレにもどってんだろ?」
イッシャクは聞いた。
白い面の男が答えた。
「ああ。何時までもやっかいにはなれない。もうすぐ冬が来る。それまでに村を何とかしなければ。…このまま冬が来れば、これからこの地に住めなくなってしまう。だが、長老。女子供はまだしばらくココにいさせていただきたいのだが…」
「当然じゃ…戦士ならともかく、今、外は危険じゃ」
長老は頷いた。イッシャクは、長老を注意深く見た。
「かたじけない」
青年が礼をする。それを見て、イッシャクは口を開いた。

「…なぁ、一つ、頼みがあんだけどよ。コイツが、少し前のうわごとで言ってた、『アマテラス』ってのを、探してくれねぇか?」
「!」
長老が、振り返る。
「…?ソレは人か?まだ生き残りがいるのか?」
蒼い面の青年が、首を傾げて言った。
「イッシャ…」
長老を手振りで押しとどめ、まくし立てる。
「なんか、狼って言ってたような…?なんだろうな?たまにオイラがのぞく度に、うわごとでソレばっか言ってるんだ。さっきも探してたみてェだった。生きてるのかもしれねェ。ついででいいからよォ。ポンコタンの人間には、まあ当然だけどよォ…心当たりが全くねぇんだ」
イッシャクは一芝居打った。言葉を遮られた長老はだまった。
「しかし、狼がなんだというのだ?飼っていたのか?」
白い面の青年が言う。
「うーん…、起きたら詳しく聞いて伝えに行くぜ。あの様子なら直ぐしゃべれる様になるだろ。大したモンじゃねェかもしれねェし…」
「そうか…、まあ探してみる」
蒼い面の青年が、頷いた。

彼等を村の外まで見送った後、長老がイッシャクに詰め寄った。
「お主!!大神、とはまさか。あの…?」
彼は五代目の天道太子だった。

イッシャクは、眠る男を指して言った。
「…コイツ、タカマガハラから落ちて来たらしい。詳しくは聞いてねェ…。だが、下手したら、ウエペケレの奴らに…恨まれる、ような事してんのかも」
「…大神、まさか、…タカマガハラが実在したとは…!」

「そんで、オイラは、アマテラスに会ったら、旅に出る」
「…!」
「なに、ちょっくらナカツクニでも!…巡ってみらぁ!大神、かぁ…!」
まさか、自分の代でこんな機会が巡ってくるとは!
ずっと、腕を磨き続けてきた。しかし、神がいないのに、何のために描くのか。
常々そう思っていたのだ。
「馬鹿モン!!」
ゴツン!と叩かれた。
「いって!何すンだ!」
長老は言った。
「この者の、正体も分からぬうちに!うかつに動く馬鹿があるか!」
「ち!イイじゃねぇかよ!この石頭!!」
「クソ、譲るのが一月、早かったわぃ…!お前はこの男の、見張りでもしておれ!!」
長老は勢いよく出て行った。

あとには、二人が残された。
「…まったくよォ。オイ、起きろ!起きろォ!アマ公を探しに行くぜ!」
イッシャクがため息を付く。顔を叩いた。
「…」
しかし目を覚まさない。
「ち、狸寝入りじゃなかったか…」


■ ■ ■




ミーは今眠っている。

時折、イヤ、頻繁に堅い音が混じるのは骨ごと喰われているからだ…。
頭蓋が割れ、そこからはみ出た脳を、隣の邪鬼がちぎって口に入れる。
群がる。
船内に恐ろしい絶叫が響いていた。
逃げ惑い、生きながら喰われる彼等の。大音声。
しかし、あっという間にその姿はおびただしい妖怪に埋もれ、見えなくなった。
宙をかすかに舞うのは赤い血のしみた彼等の羽のかけらだった。

「うぁああああああ!!」

傷だらけになったミーは叫ぶ。
妖怪の血を浴びたミーは叫ぶ。

妖怪を!全て!殺さなければ!!
皆を助け…!
しかし、有無を言わせぬ力で、皆がミーを閉じ込めた。


光の檻の中に。


「お元気で…」
そう言ったのは、誰だったのだろう?

声が聞こえた気がしただけなのかもしれない。
だってミーがみたのは―。

■ ■ ■


その男が目を覚ましたのは、翌日の事だった。
「はぁ、はぁ!」
何か悪い夢でも見たのだろう。
「オイ。だいじょぶか。水、飲め。まあまともに動けるまで、二月ってとこか。細っこいくせに丈夫だなァ!」
水を差し出す。しかし、受け取らなかった。
「ああ、俺はイッシャク。この前あの船の下で会ったろ。…今はお前の方が小さくなってんだよ。コロポックルの村に入れる為にな。飲めよ…んで、聞かせろ。大神様の事…なんで、タカマガハラが、滅んだのか」
「…」
だまったままだ。
ふらり、と起き上がる。
「オイ!」
そして、立ち上がった。
ヤマトの近くで見つけた時も思ったが、なぜ立てるのだ?身体的に無理なはず。
まさかココまで来られないだろう、そう思って、見に行ったのに。
実際、みんなはヨシペタイを探していた。そこで迷っているにちがいないと。
あの森をどうやって、抜けたのだ?
「…!無理すんな!」
「世話になった。アマテラス君を探しに行く。ユーとはまたいずれ…」
そう言って、出て行こうとする。
「こんの!アホんダラ!」
イッシャクが言う。
「せめて!名ぐらい名のれってんだ!無礼も無礼、ソレがタカマガハラの流儀なのかァ!」
それが効いたのか、男は立ち止まった。

「…ウシワカ」

その男は、そう名乗った。


■ ■ ■


「洗いざらい話すまで、ココは、通さねェ!この刀にかけてな!」
イッシャクは刀を抜く。

少年のような姿のイッシャクと、ウシワカと言う男。
二人が、狭い空間に対峙する。

「…」
その男は、丸腰だった。
自殺しようとしていたこともあり、今は持ち物全て別の場所に保管してある。
しかし、分かる。コイツ、強い。
ウシワカと名乗った男は、かまわず、足を踏み出そうとする。
しかし、くら、と揺らいだ。
「オイ!」
しゃがみ込む。まだやはり、無茶をさせてはいけない。
あれから二月も経っていないのだ。
「とりあえず、寝てろ!」
「武器はどこに…!」
しかし彼は、頑として横になろうとしなかった。
「体は…何とでもなる。早くアマテラス君を探さなければ…!…何故見えない!」
そう言って、また、立ち上がろうとする。
コイツ、もしかして…。
イッシャクは思い当たった。
ヨシペタイに逃げろと言ったのは、この男だったとオイナ族から聞いていた。
「おめぇ、何か使うのか?…祈祷師か?」
「…」
男は黙り込んでしまった。

「イッシャク!出てこい!」
その時、長老の声がした。戸口が叩かれる。後ろには、オイナ族の者が一人いた。
「ジジイ、どうした?」
「客人…起きているのか…、丁度良い。アマテラスか、分からぬのじゃが…白い狼を見た者がいた」
長老は今の状況を知らず、男にそれを伝えてしまった。
「「!!」」
二人が固まる。イッシャクは直ぐに叫んだ。
「オイ!ジジイ!」
「何処で?」
「おめぇ!やめろ、フラフラすんな!」
イッシャクが怒鳴りつける。
「何処だ!!?」
その男は怪我人のくせに、良く通る大声で言った。
長老が驚く。何とか言った。
「…ウエペケレからかなり離れた村で、白い狼に助けられた者がいたらしい」
「…っ!場所は!?」
ウシワカが詰め寄る。しかし。
「貴様!いい加減にしろ!!」
後ろに控えていた、オイナ族の青年が、ウシワカを殴り飛ばした。
ウシワカはまともにくらって、吹き飛んだ。
蒼い仮面をかぶった青年が怒鳴った。

「貴様が、天の國からあの船を運んできたのだろう!!救われた恩も知らず!…どれだけの仲間が喰われたと思っている!!」
吹き飛んだウシワカをつかみ、数回殴った。

「オイ!!やめろ!」
イッシャクが叫ぶ。
…天の國!?そう言えば、あの時、ヤマトの側で駆けつけたのは、この青年だった…!
「…!まさかおめぇ、聞いてたのか?」
イッシャクが、間に入って止めた。二人を長老と引き離す。
「…今まで、黙っていたが、もう我慢できない!化け物どもが、生き残った貴様を探して回っているのでは無いのか!?釈明しろ!」
「…アマテラス君が先だ!!」
そう言って、また、ウシワカは立ち上がった。
「ミーは会わなければ…!場所は!!?」


■ ■ ■


結局、ウシワカに押し切られる形で、その日のうちに、白い狼が目撃された場所へ行くこととなった。
村の外に出て、小さくなったイッシャク。それとあの蒼い仮面の青年が案内役兼、見張りとして着いてきた。

「…」
はっきり言って、雰囲気は最悪だ。青い仮面の青年の肩に乗るハメになってしまったイッシャクは彼がまたウシワカに殴りかからないかヒヤヒヤした。
しかし、やはり…ウシワカは。何かの術で無理に体を動かしている様に思えてならない。怪我だって、まだ殆ど直っていないのだ。
インチキ野郎。
次から、イッシャクはそう呼ぶことを心にきめた。
今、彼は白い着物に身を包んでいる。オイナ族の村で適当に借りた物だ。足には、これもオイナ族の履き物を履いている。もと着ていた物は、ポンコタンにあったが、血で汚れ、あちこち破れていてとても着られそうになかった。
急いで出て来たため、目立つ金の髪はそのままだ。…何とかさせた方が良かったかもしれない。
途中、幾度か化け物に出くわしたが、あっさりとウシワカが腰に差した剣一本で切り捨ててしまった。鮮やかな刀裁きだったが、本人は忌々しげにしている。
まったく、コイツ、相当なもんだ。

「…、この近くだ」
イッシャクを乗せた青年が、小さな集落を見て言った。

助けられた者の話を聞くと、化け物に襲われた時に、突如風が吹き、その獣が飛び出して来たらしい。獣は戦い、妖怪を倒すと、森にまた駆けていったそうだ。
話をした者は、ウシワカの長い髪に目を留めていた。イッシャクが都から来た、異人だと言って上手くごまかす。

話を聞き終える寸前、ウシワカは、ふと、顔を上げ走りだした。

二人は慌てて追った。

イッシャクが、うっそうと木々が生い茂る森の中、ウシワカの後ろ姿を見つけた。


その向かいに。白い獣がいた。

「…!」
イッシャクは息を呑んだ。
神器をまとう、神々しい、その姿。
晩秋の森に、白い大神がいる。

オイナ族の青年は固まっていた。
イッシャクは…そっと青年の肩から飛び降り、息を潜め、近づいた。
少し離れた真横から彼等を見上げる。…これが、大神アマテラス…!

ウシワカは膝を突いた。
そして、…告げた。
「天神族は、出航してすぐヤマトの底からあふれ出て来た妖怪に…、全員喰われた…、初めから、…あの船には…妖怪が、積まれていた。…生き残ったのは、ミーだけだ」

ウシワカの…声が震えている。体も、ガタガタ震えていた。
それでも、何とか必死で背を正そうとしているのが分かる。
手を堅く、握りしめている。

ヤマタノオロチは、…百年後、イザナギという者を待たなければ倒せない。それまで、毎年、…生け贄を捧げなければならない」

その姿は、裁かれるのを待っているようだ…とイッシャクは思った。

大神は、近づいてきた。ウシワカの側まで。
その神の歩いた後には、草木が芽吹いた。

アマテラスは、少しうつむき。
悲しそうに、一つ鳴いて。

それからウシワカを見つめて、ぱた、としっぽを動かした。

「…!!」
ウシワカが、目を見開く。

…わかった。

この神は、そう言ったのだ。

「あ、アマテラス君……」
ウシワカが、大神に手を伸ばす。
その指の白さがイッシャクの目に焼き付いた。

…イッシャクは、男が神にすがって泣き叫ぶのを黙って見ていた。

感動にふるえながら。

これが、大神。

はっきりと、真紅の隈取りが見える。背には鏡が。
渦巻く炎と光の筋をまとっている。

これが、アマテラス大神か…!

「イッシャク君」

幾ばくかの時が経っていた。

叫んでいた男が、膝を突いたまま、アマテラスを軽く抱擁したまま、こちらを向いてイッシャクに話し掛けてきた。
「ユーは今から、アマテラス君と旅に出てくれ」
「な…」
いきなり、何を言い出すのだ。

「ミーは…まだ思うように動けない。足手まといになる。アマテラス君、あの小さな彼が六代目の天道太子だよ。オーケー?」
ウシワカから離されたアマテラスは首を傾げた。

…コイツら、ポアッとしてやがる。

イッシャクは、思った。
ウシワカは続けた。
「本当に世話になった。そこの彼も…。ミーはこれ以上アマテラス君に甘えることは出来ない…。一人でやらせてもらうよ」
そう言って立ち上がり、大神に背を向けてスタスタと歩き出す。
イッシャクは、あっけに取られた。

…まさか、コイツ!?このまま一人で、どこかに行く気なのか!?

「アホかぁあああ!!」

イッシャクは蹴飛ばそうとした。
しかし、空ぶった。

ウシワカが、倒れたのだ。


■ ■ ■

「…、ポンコタンに閉じ込めよう」
「ああ!」
「ワウッ」
倒れたウシワカを見た三人の方針はあっという間に固まった。
イッシャクはアマテラスの額に乗っていた。
青年がウシワカを背負い、帰路を駆ける。
…コイツ、放っといたらどこフラフラ行くか、わかんねぇ!

ウエペケレに帰り着く頃には夜になっていた。
深夜、ポンコタンにつき、長老から借りていた秘宝で青年とアマテラスも中に入った。
ウシワカを今度はイッシャクの部屋に寝かせる。

真剣な表情のイッシャク、長老、オイナ族の青年、そしてポアッとしたアマテラス。
とりあえずこの顔ぶれで、ウシワカの周りを囲み、これからの方針を話し合う事にした。

「…俺は、コイツはもうカムイを去った事にした方が良いと思う。今、もうここには村の者もいないし、普通は入れない。コイツが傷が癒えるまでいても、気付かれる事も無いだろう。…皆には上手く言っておく」
「!」
意外にも、青年がそう言い出した。
「そいつは、イイかもしれねぇが…どういう風の吹き回しだ?昼間、散々怒ってたのによォ」
今は青年と同じくらいの大きさのイッシャクが、不思議そうに聞く。

その青年は、アマテラスを見やる。
「…フッ、特に理由はないな。…強いて言えば、このアマテラス大神に免じて、…と言ったところか?」
そう言って、軽く笑った。
「…ポアッとしているだけのように見えるがのう…」
長老がアマテラスを見て首を傾げている。
イッシャクがため息をつく。
「…まあアマ公を見てると、なんかいがみ合うのもアホらしくなる…ってのは分かるぜ」
「…クウ?」
アマ公、と呼ばれた大神が、首を傾げる。
青年はアマテラスの背を軽く撫でた。アマテラスが嬉しそうにする。

「この男がそのうち事情を話し出したら、お前が、俺か、新しく決まった村長に伝えてくれると助かる。村長にだけは本当の事を伝えておく。この男はなにか、妖怪…ケムラムとでも呼ぶか…。それに対抗する良い術を持っている…と言う気がする」
彼はウシワカを親指で指して言った。

「ああ。任せろ。なるべく早く聞き出すぜ」
イッシャクがうなずき、請け負った。
「俺は、おそらく、もう来られないだろう…冬の支度もしなければ」
そう言って、青年が膝を立て、立ち上がろうとする。

「…」
その時、ウシワカが目を開けた。…身を起こす。

「ユー、…この年の暮れ、イリワク神殿に、双子の魔神があらわれる…」

「おい」
イッシャクが、ウシワカを押しとどめた。
ウシワカはおとなしく横になり、青年を見つめ静かに続けた。

「…彼等の吹かせる猛吹雪により、ラヨチ湖は方舟ヤマトを抱いたまま永久に凍結する。今から神殿の入り口に大門を作り…少しでも吹雪をせき止めなければ…、村は死に絶える」

「!?」
青年が、固まる。

「その双魔神、モシレチクとコタネチクは、ユー、と、白い仮面の者で倒さなければならない」
「!」
そこにいる者達は息を継ぎながら、虚空の何かを見つめて話すウシワカを、凝視していた。
…これは、まさか…?
アマテラスはポアッとしていたが。

「ユーは、神殿に持ち去られた宝剣、クトネシリカ…、を、持ち帰り…。ラヨチ湖のほとりに祭壇を築いて、そこに収める。これが、ミーの予言だ。…出し惜しみ出来る状況じゃないから、サービスで超ロングバージョンにしてみた…、ふぅ…」
ウシワカはそう言って、目を閉じた。

予言。

「予言…だと、お前は」
青年が、おののく。
イッシャクは、やはり、と思った。
「英雄君…、この目には、未来を見通す力がある」
息を吐くようにウシワカが言った。
「…」
青年が、黙り込む。
「それは、確実なものか?」
注意深く、ウシワカに尋ねる。
「今まで、…外れたことは一度もない」
ウシワカは目を閉じたまま言った。

「ありがとう。…その通りにする」
青年が、深く、頭を下げた。

「…!」
ウシワカが、彼の方を向き、目を見開いた。


それからしばらく、ウシワカのすすり泣く声がイッシャクの部屋に響いていた。

〈おわり〉

 

 

 

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