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絵、時々文章なブログ(姉)

sungenのブログです。pixivデータ(主に文章)の保管用ブログ。オリジナルイラスト、小説がメイン。


sungen(pixiv genペア)のブログです。


アート、デザイン、漫画、イラスト、小説について語ったり、作品をアップロードしたりします。
漫画、絵、文章を書きます。二次創作は大神。
長編小説はヘッダのシリーズまとめから探すと楽です。







■JACK+ ② レオン 【オリジナル小説】【JACK+】【ブレイクダンス】

■JACK+(オリジナル) 小説 ダンス関連 乙女

第2話です。

※ベスのスクールに入った年齢修正しました。七歳→十歳。七歳だとノアが三歳になってしまう…。(5/29)

20160110162233

■次回『第3話 自決(前編)』
http://sungen.hateblo.jp/entry/2015/12/31/125904

このシリーズは外人さん大集合です。何かあった時の親のありがたさよ…。

ベスの髪型イメージはまあ新妻エイジとか。←適当。【本文字数 9801文字】

 

 

JACK+ ② レオン

 


そこはビジネスホテルのような部屋だった。


入って直ぐに簡易キッチン、冷蔵庫。向かいにシャワールーム。
ベッドは二つ。窓は無い。
そのベッドの入り口から遠い方に、誰かが横たわっていて、それを二人の男女が見下ろしている。

「…まだ起きないわね」
「量、間違えたんじゃ無いかな?っていうか東洋人だろ?遠かったんだよきっと。どうする?見てても仕方無いし、レオンはまだ来ないだろうし、どうせなら―」
金髪の青年が、ベリーショートの女の赤い髪に手を伸ばす。
彼女はおそらく成人。ベリーショートと言っても、耳の横だけ髪を伸ばしている。

この二人は恋人同士のようだ。

青年は水色のTシャツ。ブルー系の迷彩のチノパン。
女はジーンズに真っ赤なTシャツ。
金髪の青年は、巻き毛を少し伸ばし、白い紐で結んでいる。
青年の額に掛かった、ややうっとうしそうな髪を、女性が払う。
「…何いってるの。途中で目覚まされたら、何て言うのよ?それにここ、レオンの部屋」
女は金色の目で金髪の青年を睨んだ。

ドアが開き、背の高い、茶色い髪色の男が入って来た。

「ノア、ベス。お前等暇だな…多分、まだ起きないだろ」
この男は、金髪の青年よりは年上のようだ。掘りの深い顔立ちで、髪は短い。

茶色の髪だが強いて言えば金髪に近い。

服装はジーンズに白い襟付きシャツ。それを着崩して、ラフな印象だ。

「そりゃ俺はいつも暇だよ。…レオン。トレーナーは何て言ってた?」
ノアと言われた青年が返す。
「全くいつも通り。起きたら適当に説明して、俺が面倒見ろってさ」
レオンは頭をかきながら答えた。
「なら、やっぱりジャックになるのね?大丈夫なの?」
ベスという女性が聞いた。
「まあ、それなりの奴だとは思う。上じゃ有名なのかもな。しかし若いのに、馬鹿だよな」
レオンが向かいのベッドに腰掛ける。
「お前が言うなよ」
ノアは呆れた様子だ。

…彼等が話しているのは、英語だった。

「幾つくらいかしら。だってこの子凄い子供じゃない?十五?」
「さあ?あー、暇!早く起きないかな。カードで遊ぶ?」
「お前等、暇だな…」
「レオンもどう?ベス配って」「ポーカーで良い?」

しばらく三人は、空いているベッドの上でカードゲームをした。



――頭を右手で押さえた。ガンガンする。
「…ん…」
眉をしかめて、目を開ける――。



「おっ!起きた!」
ノアが目を輝かせる。
「…?」
ぱち、とベッドの上の少年の目が開かれる。

「おはよう、ジャック。いや、まだ分からないか」
レオンがほぼ真上から、少年を見下ろして言った。

「…?」
少年は「は?」と言う顔をした。誰だコイツ。

「君、起きられそう?具合は?」
ノアが身を乗り出して聞く。
少年は顔を少し横に向け、「え?」と言う表情をした。

…目を開けると、少年は余計幼く見えた。
彼は布団にくるまったまま、黒く大きな目を見ひらき、時折まぶしそうに目を細めながら、周りの三人を見ている。
どうひいき目に見ても、状況を理解しているようには見えない。
まだ薬が効いているのか、目をこするしぐさも緩慢だ。

「…?…ねえあなた。英語話せる?」
ベスがしゃがみ、首を傾げて言った。
もしかすると、言葉が通じていないのかもしれない。

「…??いや。え?…、イエス、宇野宮は?」
少年は日本語でそう言った。辺りを見回す。
「?ウノ?」
ベスは眉を潜めた。少年はyesと言ったが、他は日本語で分からない。

「どうする?」
ノアはレオンを見た。
「…、英語は分かるか?今から英語で話せるか?自力で身体を起こせるか?」
レオンは注意深く言って、ベスの隣にしゃがみ、少年に目線を合わせた。

少年は頭を左手で抑え、ベッドに右手を突きゆっくりと身体を起こす。
…理解は出来ているようだ。
ノアが手伝った。

「…アンタは誰だ?」
起き上がった少年が英語で喋った。三人に十分伝わる発音だった。

「なんだ話せるじゃないか。良かった。俺はレオン、これから同室になるから、よろしく。仲良くやろう。ああ、君の名前は?」
言葉が通じるなら面倒が無い。レオンは手を差し出した。

しかし少年は、差し出された手をじっと睨んだまま、動かない。

「…ここ、どこだ?」
そしてキツイ目つきで言った。

「ドコって、それは俺たちにも分からない。けど来る前に説明あっただろ?」
「…説明?」
少年が全く分からない、と言う顔をした。
三人は顔を見合わせた。
「…ねえ、あなたの名前を、とりあえず教えて」
ベスが代表で口を開く。
「ハヤミ、サク」
速水は混乱していたので、日本語の順番で姓名を名乗った。
「ハヤミね。私はエリザベス。ベスって呼んで。あなた、契約書、ちゃんと読んだ?」

「契約書?何言ってるか分からない…いきなり…」
速水は戸惑ったように髪をつかんだ。

必死に頭を落ち着かせ、記憶をたどる。

確か―。
宇野宮という警官が訪ねてきて、ライブハウスに行って―、奈美とか―。
いきなり、気が遠くなって。
そして、目を覚ましたらここにいた。見知らぬ場所、見知らぬ外人。

つまり。
――あの警官が、俺をハメた!?
「…くそ…っ!あいつ!!」
速水は舌打ちしシーツを握りしめた。ベッドを叩く。
うかつだった!

間違いない。
奈美と言う女性を人質に取られていた宇野宮は、ジャックをだしに速水をライブハウスへまんまと誘い出したのだ。
ホールで気が遠くなったのは、何か嗅がされたからだろう。殴られたりした訳ではないようだが…!
だが、一体だれが?
この三人は犯人とは無関係な気がする。速水と同じ、被害者という感じでも無い。

「おい!ここは?どこだ?」
ようやくまともに頭が動き始めた速水は、周囲をせわしげに見回す。
―ビジネスホテル?

「待て、ちょっとコレでも飲んで、落ち着け。君は、チャイニーズか?」
レオンが水を持って来た。
「違う。……日本人だ…」
速水は肩を落とした。
まだ混乱してはいるが、おおむね、自分の置かれた状況が理解出来てきたのだ。
三人とも、おそらくアメリカ人…となると…、まさかここは、日本では無い?
部屋の造りはビジネスホテルのようだが…、速水は様式の違いを感じ取っていた。

「ジャパニーズ?まためずらしいな。けど、まさか何も聞いて無いの?」
ノアが言った。
「ハァ…、おい、レオンってやつ」
「…」
速水にぶっきらぼうに言われ、レオンは少し眉を動かした。

「俺は、まだ混乱してるけど…、…多分、誘拐されてきた。説明とか一切無しだ。――犯罪だろこれ!日本に帰る方法はあるのか?」

誘拐。
その単語に、三人が驚き、顔を見合わせた。

「…推薦か…」
そして真ん中のレオンが天を仰いだ。

「って事は、君はやっぱり、ダンサーなんだな?」
レオンに言われ、速水は目を見開いた。
「…そうだけど、お前は俺を知ってるのか?」

「いや、俺たちはもうここに暫くいるから、上の事は知らない。君はメンバーの誰かに推薦されて、攫われたんだ」
レオンは同情を顔に表していた。可愛そうに…と言った感じだ。
「なっ!?…はぁ!!?………嘘だろ……」
速水はベッドの上で、頭を抱えた。

「ジャック」

ベスにそう言われて、速水はがばっと身を起こした。
「…!!」
至近距離で目が合い、ベスが驚く。
「このカード、あなたのだけど…」
そう言って見せられたのは、ダイヤのジャックだった。
「…!!それは――!!」
速水はそれをベスから奪った。

速水が封筒に戻し、PCデスクに置いたままだった硬質カード。

「…そうか、『ネットワーク』!!?あの手紙の!?」
意外な配線がつながり、速水は愕然とした。
「これが来たのは知ってるのか」
レオンが言った。

速水は悄然と項垂れた。
「ファンレターに混ざって、ダイレクトメールだと思って、気にもしなかった…家にあったはずだけど」
そして速水は、今の自分の持ち物を確認した。
ポケットにケータイと財布を持っていたはずだが…。
「…何も無いな」
「帽子があったよ。そこにある。靴も」
ノアがベッドの脇を指さした。確かにある。
「…」
この状況でそれは喜ぶべきなのか?
頭が別の意味でガンガンする…。しかし、ようやく手足にまともな感覚が戻ってきた。


「とりあえず、水をくれ…」

 


■ ■ ■


「俺は、確かにダンサーだけど。何で分かったんだ?」
水を飲み干し、速水は聞いた。
「それは、俺たちも踊りをやるからだ。ここはそういう人間しか来ない」
レオンが答えた。
「!?踊るのか…?―彼女も?」
「ええ」
ぎょろりと速水に見られ、ベスは少しムッとしたようだ。

「でも何で、その…推薦されたんだろうね?日本人攫うとか、結構リスク高いんじゃないか。ハヤミさん今何歳?」
ノアが速水のカードを弄びながら聞いて来た。
「十七だけど」
速水はそれだけ言った。
「何か、大きな大会とか出たりしたの?プロ?アマ?」
そうノアに聞かれたので、速水は経歴を適当に話した。

六歳くらいからブレイクダンスを始めて、一年半ほど前、タッグ…二人組で世界大会優勝。
その直後、相方は事故死。
「…で、この前はソロで出て準優勝だった」
ジャックの事はあえて省いたが、速水は何だか予感のような物を感じていた。

シーツを除け、ベッドから出てその端に座る。
「…聞いて良いか?」

「多分、そうなんだろうけど。ジャック―、ジョン・ホーキングってここの出身か?あのクマの好きな。俺、あいつと組んでたんだ」

速水の言葉に、皆がポカンとした。

「ジャックだって!?」
レオンが驚く。
「―!!?ちょっと待て!?じゃあ死んだって、ジャックのこと!!?」
「うそっ!?まさかそんな!信じられない!事故!!?」
ノアとベスが速水に詰め寄る。
「そうだ、彼が死んだだって!?」
レオンも気がついた。…乗っただけかもしれない。
とにかく三人が速水の近くで騒いだ。

「うるさい」
速水は黙らせた。三人は我に返った。

「…悪い。ハヤミ。ジャックと組んでたって…日本で会ったのか?」

レオンに聞かれるまま、速水は話す。

――バイト先でジャックと出会い、一年半ほどダンスを教わった事。
俺と組まないかと誘われ、ジャックにくっつく形で大会に出場した事…。
ジャックが死んで、代わりに踊り続けることにした事。
そのうちに、ジャックと呼ばれるようになった事――。

「…」
話を聞いた三人は、どんよりとしていた。

レオンが口を開いた。
「それなら仕方無い…、君は運が悪かったと思って、ここで頑張るしか無い」
ぽん、と肩を叩かれた。

速水は、レオンの態度に内心いらついた。
――運が悪かっただと?
レオンは、速水が攫われたのはジャックに関連した、いわば仕方の無いこと…と言いたいらしいが…。こんな、人攫いが許されて良いのか?

速水の親だって心配を…。
…彼は親とは、中学時代から絶縁状態だった。
隼人は速水が仕事でアメリカに行っていると思っているから、気がつかないかもしれない。
しかも電話するなと言ってしまった…。
しかし、速水が居なくなったら、仕事先に迷惑がかかるし違約金も発生する。
それは金があれば…ごまかせる?
…こんな手の込んだ誘拐をする組織だ。金はあるに違いない。
下手したら、速水が消えても、あっさり隠蔽されて終わり?

…やばい。

そこまで一気に考えて、速水は青ざめた。――全く笑えない。

「…ここのルールを説明してくれ」
速水はそれだけ言った。

「ああ…、今から教えてやるよ。ノア、カード貸せ」
「ん。どっち?」
「どっちもだ。ベスも貸せ」
「はいはい」

テーブルに置かれたのは、プレイングカード…いわゆるトランプと、速水の受け取った物と同じ硬質カードが三枚。
速水の物を合わせると四枚。硬質カードは全て絵柄が違う。

この三人が、これをそれぞれ持っていたと言う事は…。つまり。

「俺はダイヤのキングで、ベスはクイーン。ノアはエースだ。ええと…ハヤミだったか?『スート』って意味分かるか?」

「スート?…いや」
余り使わない単語だったので、速水は思い当たらなかった。

「『スート』って言うのは、トランプの絵柄のことで、ハート、ダイヤ、スペード、クラブのことなの」
「ああ。なるほど」
ベスの親切な説明に速水は頷いた。

レオンが続ける。
「俺たちはダイヤのグループ。ここでは同じ組のメンバーをファミリーって呼んでる。各スートに、絵札…ジャック、クイーン、キング、あとエースが居る。絵札の四人が最高ランクで、この四つに優劣は無い。もちろん各スートのメンバーは十三人ずつ。合計五十二人。一応皆ダンサーだ。それで、おおざっぱに言うと、各ファミリーで競い合うんだ」
「なるほど…」
と言う事は、ジャックは後三人…ダイヤ、ハート、スペードにもいると言うことになる。
確かにトランプを模しているならそうなるが、複数いるとは。

だがなぜ競うのか。

「どうして競うんだ?ダンスで…勝負するのか?…何で?」
速水は心底不思議そうに聞いた。ダンスバトル自体は確かに存在する。

特に、速水のやっているブレイクダンスはバトル色が強いダンスだ。
大会だってバトル形式が多いし、ストリートでも闘う。それが日常と言って良い。
だが、ここまで手の込んだ形式のバトルがあるとは聞いたことが無い。
非合法だし、速水が知らなかっただけかもしれないが。

――というか、競ってどうするんだ?賞金でも出るのか?
もちろん技を磨いたり、競ったり、勝ったりすることは嫌いではないが…。

踊りに優劣は無意味と言うのが、速水の基本的な思考だった。
彼にとってダンスは、観客や、誰かを喜ばせるためだけにある。

「目的とかあるのか?」
訳が分からない。速水はそう思って、それはレオンに伝わったようだ。

「…。まあ、誘拐されたなら仕方無いな」
レオンが溜息をついた。机から離れ、ベッドに座る。
ノアとベスは説明はレオンに任せ、テーブルに着いてババ抜きを始めた。

「ネットワークってのは、かなり国際社会に幅を利かせてる組織で、メンバーは全員、超金持ち。国際的な組織だから、グローバルネットワーク…そのまんますぎだけど『GAN』って呼ばれたりもする。組織の由来は…俺も親父がここ出身のダンサーだったから聞いただけだなんだが…。クランプダンスって知ってるか?」
「ああ」
速水は頷いた。
KRUMP(クランプ)とは、ロサンゼルス発祥のダンスバトル。
様々な抗争を平和的に解決しようと、ダンスで戦ったのが始まりらしいが…。

レオン曰く、ここのメインはそれと、速水がやっていたブレイクダンス
基本、ダッグまたはカルテット同士で戦う。たまにもっと大人数の場合も有り。
審判はネットワークから数人。
このあたりは普通のダンスバトルと同じだ。

「…アイツら、馬鹿なんだよ」
レオンは忌々しげに言った。

「その昔、二百年くらい前…『ヘイ!俺たち金が有り余ってるから、世界平和の為に、ダンスで何とかしようぜ!』…って考えた馬鹿がいたらしい。基本チャリティ。実際はただの掛けダンス。各国の大金持ちが、面子を掛けてより抜きのダンサーを集めて、競い合う。もちろん、内密に。…いわばアンダーグラウンドの見世物だな」
「…」
速水は頭痛がぶり返してきた。

「ちょっと待て。世界平和?ダンスで?―無理だろ!」
速水がそう言うと、レオンも頷いた。

「だよな。でも実際、莫大な寄付金でどっかの恵まれない子供とかは助かるし、抗争の調停とか、国連の発言権とか、色々影響あるらしい…となると、あながち馬鹿にもできないんじゃないか、…って俺は思ってるけど」
「レオンってさー、何か、今日も馬鹿だよな」
ノアが口を挟んだ。
「きっと明日も、あさってもそうでしょうね」
ベスが苦笑する。
「黙れ外野」
レオンは舌打ちした。

ノアが負けたらしいカードを置いて速水のベッドに座る。
「でも、ハヤミってすごいラッキーだ。誰が推薦したのか知らないけど、きっとハヤミのファンじゃない?」
ぴし、と指をさす。
「ファン?」
「そう、だって、普通日本人なら、ユーラシアのファミリー入れられるけど、あそこかなり物騒だから。特にジャパニーズに対しては風当たりキツそうだし」
「やっぱり、ジャックじゃないかしら。彼がいなくなってから、私達ずっと最下位だもの」
ベスが口を挟む。
「ジャックが?…」
速水は少し考えた。しかし、ジャックの性格からして―。
「いや、それは無いだろ。彼は説明も無しに、押しつけたりはしないはずだ」
レオンがそう言った。
「俺もそんな気がする。けど、誘拐じゃないなら、ノアとベスはどうしてここに来たんだ?」
先程、レオンは親がここの出身だったと言っていた。ノアとベス、他の皆もそうなのだろうか?

速水がそう言ったとたんに、二人の顔が曇った。

代わりにレオンが口を開いた。
「さっき言った通り、俺が一番オーソドックスな感じだ。大体家族とか、知り合いのダンサーの紹介で、連絡役に会って、契約を交わして入る。方法とか国によってまちまちで、アメリカは自由度高い。どっかじゃ、その為に孤児を買って―、ゴホ!」
ノアがレオンを蹴った。

「やっぱり馬鹿だね」
…つまり、ノアはそういうことなのだろう。

「私は…街で踊ってたら、家族を養ってくれるって…それを引き替えに入ったわ。十歳の時」
ベスが言った。

ベスは今二十歳。レオンは二十四歳。ノアは十六。

「ノア、十六には見えないな。老けてる訳じゃ無いのに」
速水は言った。
「、…よく言われるよ。主にジャックにはね」
ノアが苦笑した。
「ハヤミも十七には見えないな。意外に背は高いけど…コレがトウヨウノシンピ?」
「…さぁ。よく言われる」
レオンの言葉に、外人と良く付き合っていた速水は、ここは笑うとこだと分かったが、適当に答えておいた。

「それで、俺はここから、どうしたら出られる?時間が掛かるのか?ジャックは外に居たけど、…珍しい事なのか?」
速水はそれを危惧していた。
聞いた通りならベスは、十歳から十年もここにいる――。

「それだ。明日から、多分、ハヤミも『ワーク』に参加させられる」
レオンが真剣な表情で言った。
「ワーク?」
速水は首を傾げた。直訳だと『働く』…しかし動詞ではない。強調が掛かった名詞だ。

ノアが心配そうに速水を見ている。
「ダンスのレッスン、その他色々トレーニング。俺たちは今日の分を終わらせて、それで暇だった。他の連中は…、まだやってる」

ノアの言葉に、速水は驚いた。ベッド脇のデジタル時計を見ると、今は午後八時半。
時間で言えばそれほど遅くないが…。
いつからやっているのかにもよる。
「…、具体的には?」
「明日のメニューは、木曜日だから。これだな」
レオンが紙をめくって速水に渡す。
速水はそれを受け取った。
「―なっ」

AM4:00起床。
すぐに、十キロランニング。終わり次第朝食。
その後、ひたすら射撃。後、訓練B-15。
昼、休憩三十分。
午後~ダンスレッスン。

最後にまた走る。

「馬鹿だろ!」
速水は叫んでいた。なんで射撃!?
「ほんと、馬鹿だよな。奴ら、特殊兵でも育てるつもりなんだぜ」
レオンはニヤニヤしている。
「まあ、こんな変なのは木曜と、月曜だけだから。あ、日曜は安息日だから休みで暇。ダンスは得点式で、基準に達しないと終わらない」
ノアが髪を弄びながら言う。
「月曜は勉強日なの。私苦手」
ベスがぽつりと言った。

「ついて来れらそうか?」
レオンが言った。
「…分からない」
速水は、そのほかの曜日のメニューも受け取って確認し、正直に答えた。
若干青ざめる。

「…って言うか、無理かも。レオン、もし仮に、ダンスや、このメニューが終わらないとどうなる?ずれ込むだけか」
ランニングは慣れで皆、何とかなっているはずだ。なら、今日はダンスというのが長引いているのだろう。
「いや、最後の項目が…九時までに終わらなかったら、ペナルティがある」

「…どんな?」

「聞くか?」
レオンが言った。
「…」
速水は頷いた。どんな物にせよ、覚悟はしておきたい。
「トレーナーによって違う。今日は軽い方。ヤバイ奴の時は、皆死にもの狂いになる。基本はリンチ。けど、相手が悪いと…まあ、そのなあ」
レオンは言葉を濁した。
「ハッキリ言えばいいのに。ファックだって」
ノアが言った。

「…」
速水は黙った。頭を抱える。
…最悪だ…!

「絶対終わらせる」
彼はそう宣言した。
「まあ、がんばれよ。つか、お前がヤバイと俺もヤバイから」
「基本ペナルティは二人セットなんだ」
ノアが笑った。
笑い事じゃない…と速水は思った。もはやうなり声しか出ない。

「で、どうしたら出られる?」
「ワーク中、死んだら出られるよ。結構あるんだ」
あっけらかんと言われた。
ノアの言葉に速水はぎょっとした。
「…そんなにやばいのか?」
「まあ、色々な…、ワークは慣れとセンスで何とか。ノア、…あんまりハヤミをからかうな」
レオンが言う。脅すな、で無い辺り、実際にそうなのだろう。
「だって、ついて来られないと、ペナルティばっかだし、ペナルティで精神やられて、踊れなくなって、それで自殺とか良くあるじゃん。あー暇だなぁ」
暇というのはノアの口癖らしい。

「…まともに出る方法は?」
速水は聞いた。
外で何がしたいというわけでも無いが…さすがにまだ死にたく無い。
「そこでバトルだ。ただしこれが難しい。ってのは、俺たちが今、最下位ファミリーだからだ」
レオンが溜息をついて言った。
彼はここに、気が付けば六年いるな…と言っていた。
「つまり、一番のチームなら外に出られる?」
「ああ。五年に一度、スート対抗の大会があってな。そこで一位になれば。だが出られるのは、そのスートの上位、四人。ジャック、キング、クイーン、エースだけだ」

名のある四人の内、クイーンは必ず女性でなければならない。
その四人が勝って抜けた穴は、ファミリーの中の、ふさわしい人物が後を継ぐ。
と言っても決めるのは上らしい。レオン達はその際に選ばれた。
どうしても適当な人物がいなければ、そのまま空席になる。

スート『ダイヤ』では先代ジャックが抜けた後、永らくジャックがいなかった。

そして先代ジャックがここを出たのが二年九ヶ月前、十二月の事らしい。と言う事は…ここを出てすぐ後、速水に出会った計算になる。

「ジャック…、あのタコ野郎…!」
聞いた速水は思いっきり舌打ちした。今は悪態も英語だ。
「間違いなく、ハヤミはジャックが見込まれてたから、誰かに推薦されたんだろうな…。ジャックが説明する前に死んだ、とかじゃないことを神に祈ろう」
レオンが心底気の毒そうに、速水の頭を撫でた。
速水はそれをうっとうしげに振り払い、はぁ、と溜息を付いた。

レオンの言った通り、速水の命運はジャックに出会った時に尽きていた。
これはもう、しょうが無いと言われたらそうかも知れない…。

どうあっても、やるしかないようだ。

速水は立ち上がった。…まだ少しふらつく。
空のグラスを持って部屋を歩き、入り口付近の冷蔵庫を開け、水のボトルを取り出した。簡易キッチンにグラスを置いて水を注ぐ。

「じゃあ今日はもう寝る。薬抜きたいし。食い物は…水しかないのか?」
「板チョコならあるぜ。早く終わると貰えるんだ」
レオンが渡す。

「あら、潔い。はい、これ」「じゃあ、俺たちは行くね。これ俺の分だけど」
ベスとノアもポケットから板チョコを取り出し、簡易キッチンに置き、ノアはクスクス、ベスは微笑しながら立ち去った。

〈おわり〉

 

 

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