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■JACK+ 【過去編】マイナス① 【オリジナル】【JACK+】

なんちゃってダンスバトル小説『JACK+』の過去編です。

タイトルが適当…。過去編なので、とりあえずネタバレにならない一話だけ。

表紙は例によって仮です。続きはそこそこ描いてあるんですが…まとめてないのでJACK+本編が終わってから取りかかります。
①のダンス描写は残念ですが、②からは多分少し頑張ってます…。

速水が準優勝するまで。後半は大会とかバトルとか多少多め?速水が準優勝するまで。正直ダンス描写の練習用です。

何でこのタイミングかと言うと、要するに今ラスト&別ジャンルかき中です。

【本文字数 9483文字】

20160117134351

 

 

JACK+ マイナス①



「え?」
速水朔は耳を疑った。

今日は店番が無かったのでいつも通りに、朝から晩までジャックと踊った。
踊って、踊って、倒れてまた踊って。少し死にかけて。
喧嘩して。また踊る回る、ひたすらに。

そして今。
彼はイヤホンを外し、汗だくでガレージの床に座って、スポーツドリンクを飲んで、タオルで汗を拭いている所だ。

時刻は午後九時を回っていた。
いつもジャックが「そろそろ切り上げましょうか」と言う頃合いだった。
やっとこの地獄から解放される…。彼は内心そう思っていたのだが。

「ゴメン、もう一回言ってくれ。ワンモアプリーズ」
多分聞き間違えだろう。そう思って速水は人差し指を立てた。
ジャックは外人なのでこの方が伝わりやすい。

優しげな面立ち、短い、ほんの少し茶色っぽい金髪。

タコ足のようなくるっとした前髪。
…大体いつも白の襟付きシャツを着て。
大体いつもくたびれた水色のジーンズを履いている。
スニーカーは白か赤。たまにネイビー。服より靴にこだわりがあるらしい。

「だから、僕と組みませんか?」
そして降りて来る柔らかい声。

「誰が」
もちろん速水はそう言った。

■ ■ ■

「は?馬鹿じゃないのか」
ガレージで速水はジャックを見上げそう言った。
その目つきは完全にジャックを馬鹿にしている。

「いいえ。僕は馬鹿ではありません。貴方と僕で、きっと世界を変えられます!」
ジャックはいまいち日本語が下手だ。
敬語なのは、それで日本語を覚えたかららしい。

「…いや。だってお前、幾つだよ」
速水は言った。速水は今、十五歳だ。
彼は中学校卒業後、この家に下宿しながら、家主であるバリスタの磐井の店で働いていた。

「僕は三十歳です」
「…アホか?」
一回りを越えて、十五歳差。
確かに、ジャックはかなり若く見えるが…無理があるだろう。

速水は立ち上がって片付けを始めた。
と言っても今は夜中なのでラジカセ等は使っていない。速水はイヤホンを付けて練習していたのだ。
イヤホンは耳に医療用のテープで止めて、小型プレイヤーを胸ポケットに入れ。安全ピンでポケットの口を止め付けていた。
朝と夜はこんな感じだ。

このガレージは磐井の厚意で使わせて貰っている。
もとは足の踏み場の無い倉庫だったが、速水と隼人で綺麗に片付け大層喜ばれた。
今では車庫にもなっているが、軽自動車を停めてもまだ十分な広さがある。

…速水はプロでも無いし、アマでも無い。
ただブレイクダンスをやっているだけの若者だ。

速水の将来の仕事はおそらく隼人と同じくバリスタ
珈琲を煎れるのは嫌いじゃ無いし、接客も楽しい。彼は客が喜ぶのを見るのが好きだった…。

親友の隼人は今、バリスタ修行でイタリアにいる。

忘れもしない、速水が十五歳になった、約一月後。
速水はどうにかして残りの中学生活をすっぽかし、一時帰国した隼人についていこうと思っていたのだが、隼人がジャックを拾ってきた。

なんでも、路上で財布も携帯も無くして凍死寸前だったとか…。

そして速水は折角イタリア語も覚えたのに、磐井に捕まり、日本語が駄目なジャックに言葉を教えて欲しいと言われた。つまりジャックの世話を理由に取り残された格好だ。
が、ジャックは隼人に言われ、話せないフリをしていただけだったのだ…!

…あれは速水の人生最大の誤算で、憎たらしい隼人の、いつもの計算だった。

心底苛々しつつ、一応速水は男の名前を聞いて驚いた。
ジョン・ホーキング。ジャックと呼ばれる男。
ダンサー?ってまさかあの…!?
男は速水も当然知っている、世界的に有名なブレイクダンサーだった。

最も彼は、ジャックがあまりに薄汚れていたので『これ本人か?パチモンじゃないのか?』と暫く信じていなかったが…。

それから三ヶ月と少し。
ジャックと一緒に朝から晩までダンスし、そして珈琲にまみれた日々。

――近いうちに、日本のバリスタ資格でも取るか。いつかイタリアへ行くのもいいな…。
速水はそれなりに満足だった。

と、ここでジャックが馬鹿な事を言い出したのだ。
「アホらし。組んでどうするんだよ。電気消しとけよ」
そう言って彼はガレージから出た。

■ ■ ■

暗い中、すり切れた飛び石を踏んで歩く。
当然だが玄関には明かりが付いている。
速水は引き戸を開けた。

師匠の磐井は田舎の土地持ちだった。それなりの母屋、ガレージ。中庭の畑。
田舎と言っても、この市のメインの道路には近く、一つ通りを越せば車線は二車線になるし、賑わいもある。
磐井の店はここから五分ほどの場所だ。

速水が通っていた中学からは十五分ほどの距離。速水の住んでいた別邸からは四十分くらいの距離。
そして隼人の元実家からは十分もかからない。

「ただいま戻りました」
速水は頭を下げた。
「あら、おつかれさま」
いつものように家に入る。磐井の母が出迎える。八十過ぎの磐井節子さん。
「お疲れ様です。お母サン」
送れてジャックが入って来た。

「おつかれー」
磐井は居間でテレビを見ていた。適当な声を掛けられる。仕事以外では磐井は役に立たない。昔結婚していたが、奥さんには逃げられたらしい。

速水はジャックと台所へ行き、いつものように遅い夕食を取る。

速水は今朝自分で作ったアサリの味噌汁に火を入れ、冷めたおかずをレンジで温める。
飯を二膳よそい、片方をジャックに渡し。冷蔵庫から麦茶を出しグラスに注ぐ。
そして速水は席について手を合わせ。頂きますと言って食べ始める。
ジャックはタコなので先に食べ始めている…。一応手を合わせてからなのが、唯一の救いか。もちろんそう仕込んだのは速水だ。

ジャックには誇大妄想の気があると速水は思っていた。

「速水サン。僕と二人で、この世界を変えませんか!」
今日もそんな事を言っている。
「…馬鹿?」
ジャックのダンスは確かに凄いが、この男はこれで良いのだろうか。ダンスの仕事もやっている気配が無いし…。

食後、速水は皿を洗った。磐井と節子の分も流しに残しておいて貰っている。
世話になっているので当然だ。
「おおっと…」
…ジャックは一応皿にラップをしている。もちろんしつけたのは速水だ。
隼人が居た頃は洗い物も交代でやっていたのだが…。もう仕方無い。節子は膝を痛めているし。

畳にソファーと言う半洋風の居間では、ジャックと磐井がテレビドラマを見ている。
この家でテレビは、ここと節子の部屋にしか無い。
速水はニュースくらいにしか興味が無かった。
「俺、もう上行くから。少ししたら風呂入る。明日燃えるゴミだから出しとけ。節子さん、お先にどうぞ」
もちろんゴミを捨てに行くのは速水だ。
一番風呂は当然節子。節子が入った後は湯を換える。隼人が決めたルールだった。
「ありがとうね」「いえ」
速水は少し微笑み、二階に上がった。

二階には三部屋あって、一つは物置。残り二つは畳敷きの子供部屋だ。
そこに今はそれぞれ、ジャックと速水が間借りしている。
ジャックが居た部屋は前は隼人が使っていたが、今はおびただしいクマのぬいぐるみで埋まっている。ジャックは余った金をほとんどそれに使っているらしい…。

「ハァ」
…隼人、早く戻ってこい。
年代物の勉強机に座り、何となく速水はそう思った。

■ ■ ■

「速水、出かけましょう。僕は今日休みです」
「いや俺、今日シフトあるけど」

翌朝、いつものように一人で少し身体を動かして、シャワーを浴び、風呂掃除とゴミ出しなどをした後。
抹茶をたて、適当な朝食を食べていたらジャックがそんな事を言い出した。

磐井はもう店にいる。
速水は九時から六時までのシフトで、週三、四日ほど働く事になっている。
「じゃあ、終わった後に。夜から」
「夜って。晩飯はどうする?」
「外で食べましょう」
「いや、磐井さんの分は?って事だけど…。じゃあ節子さんに…」

節子に外出の報告をし、晩ご飯を頼んだ。
「マスターにも何か買ってくるように言っておきます。揚げ物以外で」



「おはようございます、マスター」
「おはよう、速水君」
店に入ると、きりっとした磐井が出迎える。

速水は裏で制服に着替えた。
この店にはもうかなり入り浸っているが、一応名目上は研修中だ。
今はマスターが休憩中なので、かわりに速水がカウンターに立つ。

「あ、いらっしゃいませ」
「ふう今日は少し暖かいね…あ、速水くん、いつもの」
いつもの時間にいつもの人が来た。
「はい、どうぞ」
速水は、ちょうど良い具合に出した。
「お、さすが」
…おそらく、自分は近い将来バリスタになるのだろう。
向いていると思うし、楽しい――。


「お疲れ。ああ、お前、最近ブレイクダンスはどうだ?ジャックに教わって、上手くなったか?」
速水の休憩中、磐井が聞いて来た。
この店では休憩と言っても、エプロンを外しカウンターに座ったりするだけだ。
磐井がそこに珈琲を置く。

「えっと、まだ微妙…」
珈琲を受け取り、速水は苦笑する。

「ダンサーにはならないのか?」
「いや、俺は好きで踊ってるだけだし。それに俺がダンスで食っていくとか、絶対無理」
速水はくつくつと笑った。
ジャックもだが、磐井もおかしな事を言う。

「けど、ジャックと組むんだろ?」
磐井が言った。
「え?ああ。そんな、だって年、一回り以上違うのに、あり得ないですよ。それに、…身長が…」
速水は肩を落とし、一番の懸念点を言った。
「そうか…まあそうだよな。でもそのうち――あ。いらっしゃい」
磐井は接客を始めた。


「速水サン!」
仕事が終わりに近づいた頃、ジャックが店にやって来た。
見知らぬ、背の高い黒人男性が一緒だ。
「いらっしゃいませ。…ジャック、その方は?」
速水は言った。
「僕の仲間です。マスター、彼にカプチーノをあげて下さい。あ、好きな席に。今オフで暇だって言ったので、連れて来ました」
「そうですか。初めまして。速水です」
カウンター越しに速水は頭を下げた。

…ジャックと同じ年か、少し上くらいだろうか。
百九十はあろうかという長身。短く刈り込んだ黒髪…。
ジャックの仲間と言うことは、ダンサーなのだろう。
確かにそんな感じの体型だ。

「…おい、こんな小さいのと組むのか?」
その黒人男性は、速水をまじまじと見てそう言った。
英語だった。
速水はちょっと面食らった。

確かに、今速水の身長は、百七十…無いくらいだ。でも年齢から見れば割と普通だと思う。が、ちょっと傷ついた。

「―、すみません、ジャックがおかしな事言ったんですね」
速水は英語で話した。
「ん?英語、話せるのか」
「ええ、一応ですけど…貴方も、もしかしてダンサーですか?」
「ロブもブレイクやってる。向こうじゃ、結構有名だ」
ジャックが言った。英語だった。
「へぇ、それは凄い…」
速水は他人事のようにそう言った。それでロブに対する興味は無くなった。

「じゃあ、朔、少し早いけど、もう上がって良いぞ」
「え?はい。お疲れ様です」
磐井がそう言って、速水は上がった。


「―そう言えばジャック、今日どこに行くんだ?ロブさんも一緒か?」
着替えを終え、速水はジャックに聞いた。
速水は大体いつもの格好だった。
黒のキャップに、黒のパーカーに黒のズボン、インナーは青。スニーカー。

さっきからロブが速水をじろじろ見ている。
一体何だろう。

「まるでクロウの子供だな」
なんて首をひねられても。…速水は気にしない事にした。

「ロブ、夕飯どこで食う?」
「そうだな、ま、途中で適当に――」

そして途中のファミレスで夕飯を奢られた。

『ブレイクやってるんだって?』『いつから始めた?』『大会出場は?入賞したか?』
「一応」「六歳くらい」「一回。予選落ち」
ロブの質問に、速水は食べながら答えた。

「いや、日本って凄い!パスタの種類がこんなにある!デザートも!」
その間、ジャックはひたすら日本のメシは旨いと言いつつ食べていた。

■ ■ ■

そこはライブハウスだった。

ロブの運転で、速水はジャックとそこに来た。
車から降りる。

「ジャック、ライブでも見るのか?もう八時だけど」
時刻はもう八時前だ。
ロックアーティストのライブでもあるのだろうか?
「今からが本番だ」
「おい、ジャック―?」
ジャックは歩き出した。
「さ、行くぞ。まあアイツの踊りを見てみろ」

「―え?」
ジャックが踊る!?今から?
速水はロブを見上げた。そしてロブも歩き出したので後を追った。

満員の観客席に速水とロブはいた。ステージから見て、かなり後ろの方だ。

ブレイクダンスって、ライブとかあるんだ?」
速水はロブに聞いた。
「おいおい、もちろんあるさ。ここは、向こうでも結構有名だ。今日はブレイク以外にも、色々なダンサー達のライブがある。しかし、お前、発音上手いな。海外に居たのか?」
「いや?ずっと日本だけど…」

そして、ライブが始まった。
速水は生のダンスステージを見るのは久々だった。
以前、通っていたダンススクールで見たきりだ。

ロック、ヒッポホップ、アニメーション…。
色々なジャンルがあった。
「凄い」
グレイト、と速水は言った。
「次からブレイク。後半戦だな。ジャックはラスト。まあ今日のメインは奴みたいなモンだ」
華やかなショーケースが始まると、速水は食い入るようにそれを見た。

技を競うように。いや、観客を魅せる為に。
ソロもいたがチームもいる。
九名ほどでそろえた動き、音に合った振り付け。

「凄い…」
今度は、クール、と速水はつぶやいた。

そしてまたソロのB-boyが引き。いきなり会場が揺れる。
速水は驚いた。甲高い声に思わず耳を押さえる。
大歓声が上がったのだ。

「きゃぁああーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」
隣の女性が凄まじい大声を上げている。

男も女も。すでに叫び熱狂している。
「ジャックーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
と皆が叫ぶ。

一瞬ライトが消え、またライトがまぶしく光る。
速水は目を細めた。

「…」
ジャックがいた。
彼を何と言ったらいいのか。――別人としか言いようが無い。あれは誰だ…?
長身、巻き毛。鍛え上げられたスレンダーな肉体。
真上、四方からライトに照らされて、四つに分かれた薄い影が落ちる。
別人のように目つきが鋭い。まるで猛禽―いや、肉食の豹。

そして、大音響に合わせ、微笑むように踊り始める。

…やっぱり、分かる。
これは自分には無理だ…。

「すごいな、ジャックは」
速水はそう言った。

■ ■ ■

その後、大歓声の中、ロブが速水の腕を引いた。
何だ?と思う間もなくホールに出て、そのまま移動した。
脇の廊下の、【KEEP OUT】と書かれた札を越え。

「え、ココって」
「ジャック、いるか!」
ロブはその扉を叩いた。

中には、先程ステージで見たダンサー達が勢揃いしていた。
『JACK』と書かれていたが、皆たむろしている。
ある者は部屋の端の、鏡の設置された机に座り、スナックを食べ。女性が真ん中に用意されたテーブルで何か、…先程の録画…を見ている。もちろんその後ろには数名のダンサーがいて覗き込んでいる。

入って来たロブを見て皆が、よう、と声を掛ける。
速水は影に隠れた形になっていたが、促されて部屋に入った。扉を閉める。

「ジャックはまだだぜ。ロブ。ほら、アンコール中だ」
「あ。…まあ、ライブの後は混むし、先に来て正解だ。おい、速水見てみろ」
ロブはごまかした。
「え…」
速水は小さめの液晶を覗き込んだ。繋がっているらしい。
ロブも速水の後ろに立ち覗き込む。

「これ、今度のDVDに入れるの。だから撮影してるのよ」
液晶の前に座っていた金髪の女性が言った。
見事な巻き毛。かなりの美人だ。
赤いインナーにネイビーのジャケットをはおり。
薄い水色のダメージジーンズ、赤のパンプスを履いている。
…彼女はダンサーでは無いのだろうか?ステージには出ていなかった。

「…君。JACKは好き?彼、凄いでしょ」
「それは凄いけど」
女性に聞かれ、速水は答えた。

液晶の中でジャックが、アンコールを踊っている。
圧巻のショーケースではなく、自由な、ブレイク。

「ジャック…何だか、楽しそうだな」
速水はふっと笑った。

「――で。ロブ、この子は?ジャックのお友達?」
その女性が、ロブを見上げ聞いた。
「驚くなよ。リサ。こいつはジャックのパートナーだ」
ロブが言った。

「「…何!!?」」
皆が振り返った。
当然、速水もロブを振り返った。

 

ギャー!!と皆が一斉に悲鳴を上げた。
「ジャック!ついにそっちの道に…!」
「う、ぁー、やっちまったのか!!」「ぐっ…ゲイ――」
「違う違う!そっちじゃ無くて、ダンス!ダンスだ!!」
「「え?」」

「えっ?ちょっと、この子が…!?嘘っ」
女性が勢いよく立ち上がり速水の肩を掴んだ。
「…!!?」
速水も絶句し女性を見た。女性の身長は速水と同じくらいだ。

「――ふう。今日も良いステージだったな…」
とそこに丁度ジャックが現れた。

「ジャック!ちょっとどういうこと!?」
リサと言われた女性が速水を放り出し、ジャックに詰め寄った。
「ん?ああリサどうだった?」
「もちろん最高だったわ!…じゃなくて!!あの子!誰よ!」
リサが速水を指さした。
「ああ、彼、ほら前に言っただろ。組む予定の―」
「ちょっと、子供じゃない!あなた幾つよ!もう三十よね!?あの子幾つ!?」
リサは凄い剣幕だった。

「ええと?…速水サン、君は幾つでしたか?」
わざわざ日本語で聞かれた。
「十五」
速水は日本語で正直に答えた。
「あれ?…えっと、――リサ。二十だって!」
ジャックは嘘をついた。

「…十五歳」
速水は英語の綺麗な発音で言った。もちろん皆にしっかり完璧に通じた。

「おいおい…まじかよ!」
「ジャック…冗談きついぜ」「嘘だろ…」
数名があきれてその場に崩れ落ちた。

「はぁ。十五って…ジャック、…またいつものジョークね?…そうよね?………冗談よね?」
リサも机に両手を突きながら、ちらりとジャックを見て聞いた。
「いや。彼と一緒に四月の大会に出ようと思ってる。今年は無理だけど、来年ならエントリー間に合うから」

オーマイガー!と聞こえたそれは皆の悲鳴だった。

「おい!…ジャック、ちょっと待て?よく考えろ?よく考えてくれ!!何に出るって!?」
ロブが部屋の端でジャックに言った。
…どうやらジャックを説得するらしい。
「全くジャックは今日もおかしいぜ!」と言う声が聞こえる。

長くなりそうなので、速水は椅子に座ってさっきの映像を見ていた。
もちろんジャックと組むつもりは全く無い。
「…ん?」
と、リサが近づき話しかけて来た。
「あなた、ホントに十五?名前は?英語分かる?」

「だいたい分かる。俺は十五歳で。名前はサク・ハヤミ。あなたは?」
「ああ、私は彼の年下の兄弟で、マネージャーなの…、そう、じゃあ貴方が兄さんの言ってたハヤミサンだったの…」
妹だったのか。確かに髪質や顔立ちが似ている。速水の事はジャックから聞いていたらしい。

「ヘイ、ユー!ちなみにソイツ、元、男だぜ。バートン・ホーキング」
一人の言葉にぎょっとして、速水はその情報源を振り返った。
「あ、今も男か?」
「ちょっとウィル!言わないでよ」
「男…!?」
速水はショックを受けた。ジャックの妹…が、男!?
ウィルやその他は笑っているが…知らない方が良かった。

「ジャックと組むって本当?…聞いてた?」
「聞いてたけど、冗談だと思ってた…」
速水はジャックを見た。まだ端の方でロブと何か話している。

「だから、それが良いと思ったんだ。俺は速水と組むから――」
ジャックは全然、ロブの説得を聞いていないようだ。

速水はがたんと椅子から立ち上がり、ジャックの方へ歩み寄った。
「おい。このタコ」
そして速水はジャックを見上げた。

「タコ!?」
側に居たロックダンサーが飛び上がった。

「ジャック。お前、馬鹿だろ。俺はアンタと組むなんて言ってない。年違いすぎるし、身長も合わないし。他にもっといいやつ居るだろ。そこの人とか」
速水は先程踊った一人を指さした。

「それにそもそも、ブレイクって一人かもっと大勢でする物じゃ無いのか?二人ってそんなに聞いたこと無い」
「ああそう言えば、俺もあまり聞いた事は無いな、アゥチ!」
速水はジャックを蹴飛ばした。

「ハァ…、もう帰る。お邪魔しました。ロブさん。送ってくれ」
「あ、ああ。行くぞジャック」
「待った!」
ジャックは速水の前に回り込んだ。速水は舌打ちした。
「ちっ。…何だよ」
「来年が駄目なら、ほら!再来年はどうだ?それなら二年あるし、君の背もきっと間違いなく伸びる!」
「…はぁ?そんなの仮定だろ。馬鹿かお前。行くぞ」

速水はジャックの袖を引っ張り、強引に控え室を出た。

■ ■ ■

「全く、何かと思えば」
車内で、速水は溜息を付いていた。
「…速水サン。いいじゃないですか」
ジャックが日本語で言った。
「無理。駄目。ノー」
速水は言った無論英語だ。

「ハヤミだったか?お前、そんなにジャックと組みたくないのか?」
運転しながらロブが聞いた。
「だって、年が違いすぎるし…。俺、背低いし」
速水は嘆息した。ジャックは百八十くらいある。どう考えても無理だ。
「一年後なら伸びるんじゃ無いか?両親はでかいのか?」
「ロブさん…あんた、反対じゃなかったのか?」
速水は言った。

「まあ…ジャックが組みたいって言うなら、やってみれば良いじゃ無いか。滅多に無いチャンスだぞ」
ロブはそう言った。
「いやだ。そんなの、実力差がありすぎて、どうにもならない」
速水は至極正論を言った。

「じゃあ、今から俺と特訓したらどうだ?」
ジャックが英語で何か言ったが、無視した。

「お前、ブレイクは出来るんだよな」
ロブが聞いた。
「出来るって…、だからまだ十五歳だし」
「向こうじゃ、普通だ。そんな年の奴でも、もっと若くても、大会とかでバンバン勝ってる。日本は規模が小さいんだ」
「それは知ってるけど、ステージとか、俺には無縁な世界だ」
速水は頑なだった。

それきり三人とも黙ってしまい、車はただ進んだ。


「ありがとう、ロブさん」
速水は車を降りた。ジャックは座り込んで意気消沈している。
「なあ!一つ良いか?」
「?」
ドアを閉めようと思ったら、話かけられた。

「お前、何であいつを指さした?」
「あいつ?」
「ジムに、ジャックと組めば良いって言っただろ」
ロブは真剣そうだった。

「ああ。――別に、ジャックに教わった人だと思ったから」
「…そうか」

「さよなら」
速水はグッバイ、と言ってドアを閉めた。

〈おわり〉

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