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絵、時々文章なブログ(姉)

sungenのブログです。pixivデータ(主に文章)の保管用ブログ。オリジナルイラスト、小説がメイン。


sungen(pixiv genペア)のブログです。


アート、デザイン、漫画、イラスト、小説について語ったり、作品をアップロードしたりします。
漫画、絵、文章を書きます。二次創作は大神。
長編小説はヘッダのシリーズまとめから探すと楽です。







■JACK+ ⑪ 速水① ジョーカー【オリジナル小説】【JACK+】

ほんの少し時間戻ります。

黒幕分かってたぜ!と言う方が大半だと思いますが…。
※※なんちゃらアイコンとか出て来ますが、この作中世界の設定です。

さて、あと三話でpixiv版に追いついてしまうのでそろそろ本気で続き書きます。

ラスト…がんばろう。

【本文字数 10845文字】

20160113220740

 

JACK+ ⑪ 速水① ジョーカー

 

ホームを出た速水は英語で歌を口ずさんでいた。

カラスが鳴いたらかえりましょう。
このフレーズを繰り返す子守歌だ。

今日は近道は通らずに普通に帰る。だって犬が沢山ついてきているし。

今はハシボソカラスを通り越して、悪魔がギーギー鳴いている。
これは『繰り返し』の前兆だ。恐ろしい叫びに寒気がする。
着込んでいても寒くて、速水は二の腕をさすった。赤いマフラーを引き上げる。
二月二十四日。冬は過ぎたはずなのに、ロスは過ごしやすいはずなのに。

俺もいよいよ駄目か。
速水は笑った。

エリックが原因を教えてくれた。
そんな馬鹿な、って話だった。

「…なあ。ウルフレッド」
速水は犬に声を掛けた。

「わん?」
ウルフレッドは今日も犬だった。
バウ?って。――もうだめだなコイツ。人間やめてる。速水はさすがに嫌になった。
「お前、一応まだジョーカーの手下だろ?」

速水はフェンスの側で立ち止まった。
近道はすぐそこだったが、前述の理由で、回り道をしてこちら側へ来た。ホームが少し遠くに見える。

速水は笑った。

「やっと分かった。俺の目指す世界平和の方向性。俺のやり方が。ウルフレッド、俺の答えが聞きたいか?」

「もちろん!!是非聞きたいわ!!」
ウルフレッドは、いきなり、意外にハッキリそう言った。身を乗り出す。
世界平和。この言葉が一番彼には効果がある。

「そうか―、じゃあ言うけど」
レオンみたいな言い方で速水は言った。

「俺は、お前に一度、世界平和に必要なのは愛だって言ったな。あれも多分間違ってはいないけど、多分、お前が欲しがってた答えじゃないよな。あの時絶対、お前、内心俺を馬鹿にしてたろ」
速水は少し疲れたので、フェンスにもたれかかる。

「まあ、そうよ。…でもでもでも!イイエ!!今はちょっと正しかったのかもって思うから、ねえだからご主人様!!お願い!電話も許して欲しいの――!!アビーちゃんのお電話番号教えて!」
今朝もコイツはそればかり言っていた。
「どうしようかな…」
「お願い!ご主人様!!」
「じゃあ、おすわり」

「サー!イエッサー!!」
速水が言うと、犬よろしく、ウルフレッドはさっと跪いた。

そう言えば、速水はウルフレッドを勝手にお姉系の人物だと思っていたが、実は彼の使っている英語は丁寧と言うだけでそっち系ではない。
ノアの時のように、第一印で適当に決めるとこうなる。ノアはむかつくやつかと思ったら意外に素直で良い奴だったし。
速水は脳内翻訳を色々間違えた、と思ったが、まあ今更もうどうでも良いと思い直した。

速水は顎に手を当てた。
…やはりウルフレッドはアビーに本気らしい。なんだゲイじゃなかったのか?
だがアビーとウルフレッドは出会ってまだ二ヶ月だ…。

「それは多分まだ早い――、そうだな。お姉系の日本語覚えたら許可してやる。で俺の目指す世界平和のやり方だけど。まず、適当に人類を百人以下にする。核兵器は面倒だからやめて、ミサイルと銃?をつかって。金はあるし…そろそろ始めようかな。エリックにヤバイウィルス開発してもらうのも良いな。あいつマッドサイエンティストだし余裕だろ…」

どこかで聞いた事を適当に言ってみたら、速水は何だか『世界征服』が出来そうな気がしてきた。

今日は…たぶん、世界をぶっ壊し始めるには丁度良い日だ。

…まあ、やらないな。
だって俺のいるこの世界は、もうズタズタに壊れてるから。
俺がそんな事しなくても人は死んでいく。そして滅んでいく。
百億年、一億年、千年、一年。そのくらい後、人類が地球にいる保証なんて何処にも無い。
…地球も無くなってるかもしれない。

「残りが百人だと少ないか。でも、世界平和に必要なのは、犠牲だ。この世界の人口がそれくらいになったら、きっとみんな、ああ、あれが平和だったんだって気づいて、お前くらい必死で平和を目指すんだろうな…その後、結局もめて滅ぶかも知れないけど」

速水はそう言って笑った。

むしろ滅べ。速水は心のどこかでそう思った。

安っぽい考え――これが自分の思考なのか、散々聞かされて思い込んだだけなのか。
速水には分からない。

でも、ダンスで世界平和。できたら良いよな。
いや、やっぱり不可能だ。やめとこう。
俺はダンスが出来ればそれでいい。

こんな、ただのお気楽ダンサーの速水より、金が欲しいネットワークより、傭兵だったウルフレッドの方がずっと偉いと思う。
自分の物か分からない平和への健全な思考に、ウルフレッドの行動は全く矛盾しない。
気に入らないやつらは、ぶっ殺せば良いのだ。皆がそう言っている…。

今も、カラスが鳴いている。速水の知らない鳥も沢山。
速水に見えないだけで、皆に聞こえないだけでこのフェンスの上とか…網の間とかにきっと色々な鳥があつまっているのだ。

速水はもたれたままフェンスを握った。
…可愛いさえずりが聞こえた。今、小鳥が羽ばたいて逃げたりしたのだろうか?

ここは風が良く通る。

多分、普通のちゃんと固い壁でしっかり守られた皆と違って、速水の周りだけ、こんな風通しの良いフェンスで囲まれていて、だからいつも騒がしいに違いない。
鳥達は意外に小さいので、フェンスの隙間を通れるし、もし上が空いていたらもちろん飛んで来られるし、フェンスの下だって余裕だし。ただ、有刺鉄線には当たらないで欲しい。
あ、カラスならくちばしで器用に外せるかな。カラスは、それを巣にするくらい逞しいかもしれない…。

速水は笑った。

「だから、だれが何と言おうと、お前は世界平和に貢献したんだ。お前が殺した誰がお前を許さなくても、俺はお前をたたえるし、尊敬するし。愛してやる――犬としてだけどな。お前は今まで良くやったよ。――この世界の誰より平和的だ。…これで納得いったか?」

犬はポカンとしている。
はぁこいつ何アホな事を言ってんだ、そんな目で見上げている。

そして犬は溜息をついた。
「――貴方って、馬鹿なのね。…それで?…『あら!?じゃあ私は良い事したのかしら?』なんて言う訳無いわよ。私にとって過去はもう過去。何時までも引きずったりしないわ…笑っちゃうわ!いや怒るわよ!!この===なクソガキ!」
そんな事を言われて、速水は苦笑するしか無かった。

戸惑っているらしいウルフレッドが久々にカタカタ笑い出した。
やっぱり、コイツは優しい。

元気づけようとしているのかもしれないし、また、アンダーの時のように助けてくれようとしているのかもしれない。
速水はあの頃から、それなりに彼を信用していた。

速水は楽しそうに笑った。
レオンが言ってたけど…確かに、俺は少し丸くなったかもしれない。

「サク・ハヤミ!あなた、そんなんじゃ、ジョーカーには勝てないわよ!」
犬は激怒『したい』らしい。
速水にはよく分からないが…最近この犬は何だか色々考えているらしい。
将来の事とか、アビーとの人生設計とかだろうか?

この前、速水が広い犬小屋買ってやると言ったら飛び跳ねて喜んでいた。

「…分かってるよ。俺はジャック。ただの捨て札…。ウルフレッド、これからはレオンに協力してやってくれ」

『…それでいいのか?』『もっと頑張りなさい。全然駄目』
声が聞こえて速水は振り返った。もっとガンバレって、もう良いよ。

…壊れかけたフェンスの下には汚れたどぶ川がある。速水はあのコンクリートの、内側の落書きは誰がどうやって描いたんだろうと思った。

やっぱり、もう一生…俺に自由は無い…。欲しかったな。自由。

けど無くても良いのかも知れない。このまま、死んでいけるなら。
ジサツしなくて済むなら、それでバンザイだ。…きっと幸せだ。
死だって一つの解放だ。しかもこれは永遠の静けさが手に入る。
ってどっかの宗教だな。

速水はポケットから携帯を取り出す。
「これアビーの番号。前払いだから、頑張って日本語覚えろよ。彼女と上手く行くと良いな」
「―~、はい!!ご主人様!!」
ウルフレッドはやや迷った末に飛びついて来た。

こいつの本性が犬で良かった。速水は心底そう思った。

■ ■ ■


時間だ。と他の犬に促されて、速水は犬小屋に戻った。

ここは元々速水が自分で住むために借りた部屋だが、速水は今、監視され犬同然の扱いなので、犬小屋で間違い無い。

「ただいま」

緑色の扉を開ける。
入ってすぐは廊下というには若干広い、机とベッドが余裕で置けるくらいの玄関スペース。ここには特に何も置いていない。
その次にキッチンとキッチンテーブルのある部屋。そこにはパソコンデスク…ただの小さめのテーブル&チェア、その上にデスクトップのパソコンが置いてある。最近出たMacなのでモニターだけで済んでいる。

その奥にリビング。奥行きのある構造だ。
この広さの部屋を日本で借りたら結構するだろうが、こちらはとても家賃が安い。
部屋はリビングの隣にもう一部屋あって、そこは本来寝室だが、速水はそこをゲストルームにしている。なので自分のベッドはリビングの片隅にある。そのほかはバストイレなど。
まだ越してきたばかりなので、小物やラグなどはあまり無い。
棚はリビングに天井まで届く備え付けの物があったので、それを使っている。
いずれ日本に帰るつもりではいるので、物はあまり増やしたくなかった。

キッチンテーブルは何も敷かずにフローリングに置いているが、今のところ特に問題は無い。…椅子で傷が付くようなら考えよう。
パソコンのテーブルの下には一応マットを敷いてある。これを買ってきたのはウルフレッドだ。自分用のテントでも買えと言ったが、これを買って来て呆れた。

もちろん今日もウルフレッドは外に置いてきた。
――さわさわと話し声が聞こえるが無視した。

速水はテーブルの上のメモを見た。
エリックは買い出しに出かけているようだ。

速水はほっと溜息をついて、キッチンで珈琲を煎れ始めた。
何にしようか…。そうだな…カフェオレかな。

偏頭痛には少量のカフェインの摂取が良い。
日本で、馴染みの医者がそう言っていた。

だからダンス教室の帰りに出会った、変人隼人がバリスタを目指してると聞いて、ちょっと興味を持った。
隼人と一緒にマスターの店に入り浸る内に、ああ、ダンスが駄目ならこれも良いかも、なんて思うようになった。
結局、凝り性なのか、気が付けば資格まで取ってしまった…。
速水はもともと病気がちだったし、頭は変だし、長くダンスは出来ないと思っていた。
彼は将来はバリスタになるんだと思っていた。

(本当に、夢みたいだったな…)

いや、いつも思っていた。
今でも信じられない。
自分が、まさか二代目ジャックになるなんて。
プロのダンサーになれるなんて…。

本当に夢みたいだ…。

これからどうなるか分からないけど、世界の片隅で良いから踊り続けよう。
ジャックの為に、ベスの為に、皆の為に。

彼はそう決意した。

――。

「?」
インターホンが鳴り、速水は画面を見た。

■ ■ ■


「散らかってるけど」
速水は机の上の薬を全て片付けた後、来客を迎えた。

「悪いないきなり」
「ほんと、いきなりだ。連絡くらいしろよ…」
ちょっと呆れる。

「いや。丁度こっちに来る予定があったから、レオンに聞いたんだ。渡したい物があったしな」
ウィルは笑って言った。
「へぇ?ああ、そこに座ってろ。丁度珈琲を煎れてるとこだったから。何が良い?とりあえずエスプレッソ、カプチーノ、カフェオレ、カフェモカ、ソイラテアプリコットがある」
速水は食器棚からカップをもう一つ取り出した。あまり食器は無いがこれだけはある。

「お、タイミング良いな。じゃあとりあえず、カプチーノでももらうか」
ウィルはキッチンテーブルに座った。

「分かった。ウィルはラッキーだ。丁度ケーキがあるから」
ウィルは甘い物が好きだった。
速水は珈琲を煎れ終え背を向けて、冷蔵庫を開けて、ホールのチョコレートケーキを取り出し、コンロの横で切り分ける。
「おお、いいな。ところで、最近具合は良いのか?」
ウィルが多分笑って聞いて来た。

「うん…、まあ」
速水は濁した。
鳥の声と、さわさわと話し声が聞こえるが無視した。

こっちで入院するって事、言った方が良いんだろうか。
エリックの知り合いの医者…。
レオンに言われるまでも無く、うさんくさい医者に決まっている。

本当はもう日本に帰りたい。けど…。
…速水の状況を知ったらウィルは何と言うだろうか。
レオンにも帰国の相談をしておくべきだったかも知れない。けどそんな状況じゃ無かったし…。

「…」
速水はふと、手を止めた。

ウィル…?
ここを…レオンに聞いた?

…レオンは今ごろ、エンペラーに会っているはずだ。

「…お前、何しに来たんだ?」
速水はウィルが視界に入らない程度に顔を動かして聞いた。

「何って、新曲のPVが完成したから、まず見せなきゃって来た。パソコン借りていいか?」
「何だ。そんな事か。発売はいつだ?」
速水は笑って、盆に珈琲とケーキをのせ、リビングに移動した。

「三月四日だ。DVDも出るし、お前、一気に忙しくなるぞ。マネージャーも探さないとな。あてが無かったら、誰か紹介してやろうか?」
速水はリビングテーブルの上に盆を置き、ウィルの分のケーキと、自分の分のカフェオレとケーキを置く。チョコレートは甘さ控えめ、コーティングの下には生クリーム。生クリームとスポンジとのバランスにこだわった逸品だ。

「そうだな…」
マネージャーか。エリック…はどうだろう。…微妙かも知れない。
速水はソーサーに載ったカップをウィルに直接渡した。もちろんラテアートを施した。
「お。相変わらず器用だな。ありがとう」
ウィルは一口飲んだ。

そして溜息を付く。
「…、うまいな…。こっちに置いていいか」
「ああ」
速水は頷いた。
ウィルがパソコンテーブルの片隅に珈琲を置く。
邪魔だったらリビングテーブルに置けばいい。

PVの再生が始まる。

ネットワークと関わる前に速水が出演したのは、ウィルの手がけたブレイクビーツのPV。
要するに、このブレイクビーツはこう踊るんですよ、と言う見本を兼ねたプロモーションだ。
ジャンルとしてはマイナーなので一般的な知名度はさしてない。

今、ここでケーキを食べているウィルこと『W・J・ヒルトン』はEDMアーティスト。彼の手がけるEDMは発売される度に各国のチャートの一位を獲得する。

彼は、毎年新曲を発表し、そしてそのジャケットとビデオクリップに新進気鋭のダンサーを起用している。
これはこの世界のEDM系アーティストの間では主流の、サウンドイメージアイコンと言われる手法だ。
アーティストは自分達のプロモの代わりに、自分の曲をダンサーに踊らせる。
それは曲と同時に発売され、大々的に曲の宣伝に使われる。
ウィルくらいのレベルになると、CDショップは二代目ジャックのポスターや動画であふれかえるだろう。もっと言えば、アメリカ中の街中でも。世界各国でも。
駆け出しだった先代ジャックも、ウィルでは無いが、この仕事で一躍有名になった。

画面の中の速水は、ヒップホップを踊っている。
彼はもちろん振り付けも自分でやった。

地下鉄…やっぱり何でだ?…気恥ずかしいので、速水はとりあえず珈琲を飲む事にした。
「なんだ、見ないのか?」
「後で見る…」
速水は言って椅子に座る。

「お前、今は耳はどうなんだ?…これから振り付けの仕事も山ほど来るだろうから。いずれはそっちを目指した方が良いかもな…」
ウィルは心配そうに言った。
「―」
速水が答えようとしたとき、ウィルの携帯が鳴った。

「あ、悪いな」「ん」
ウィルが言って、速水は自分のケーキをフォークで切り分けた。

今日はエリックが、薬はまだ飲まなくて良いと言った。

だから具合が良くて、レオンに会う前に焼いたのだ。
今できる楽しみはもう料理くらいしか無い。…レオンに持って行くのはさすがに馬鹿らしくて止めた。

「ああ。良いぞ。もう十分だ。引き上げてこっちに来い」

切り分けたかけらを口に運ぼうとして、速水は動きを止めた。

引き上げろ?
こっちに来い?

「――ウィル?」
「水くさいな、ジェスターって呼んでくれって、言っただろ」

ウィリアム・ジェスター・ヒルトン。

「…なんだよ、いきなり」

彼が近づいて来たので、速水は立ち上がった。

カラスが鳴いている。ここから出た方が良い。
物音がしたので、速水は入り口の方へ目をやった。
そこにはエリックがいた。今日は買い出しに行くと言って、結局何も買わずに戻って来たらしい。

その後ろには、なぜか歌手のルイーズがいた。
彼女は今日はスーツを着ている…雑にまとめた髪がかえってだらしない印象だ。

三人に囲われる形のまま、速水は一歩後ずさった。
背後はウィル、正面にエリック、そしてルイーズ。

「…エリック…お前――」
速水は何が言いたいのか自分でもわからない。ただ酷くいやな事が起こるとは予感できた。
ウルフレッドはどうしている?

「外で寝てるわよ」
ルイーズが言った。
「―なっ?」
速水は何も言っていない。

「あの犬はお前にやるよ。どうやったか知らないが、お前の方が良いんだとよ」
ウィルのその言葉で、ようやく全てが分かった。

「…ジョーカー…」
こんな近くに。

■ ■ ■


ジョーカーは、ジャックの隣にいた。
勝てないはずだ。

速水はテーブルに手をついた。頭を押さえる。
…けど、いや、だって。ジョンとウィルって親友だろ?

って言うか『ジェスター』=『ジョーカー』とか、そのまますぎだ…。

「何でジャックを殺した…お前がやったのか?」
拳を握り、速水はジェスターに言った。英語の発音が震えた。

ジェスターという単語には道化師という意味がある。

速水はかつてウィルにその名前で呼べと言われたが、何となく語感が嫌いだった。
だからジャックと同じように『ウィル』と呼んでいたのだ。もしかしたら、速水は心のどこかではそう思っていて、…深く考えたくなかったのかも知れない。

…嘘だ。…信じたくない。

「この子、信じたくないって思ってるわ」
ルイーズが言った。

「そうか。じゃあどう答えようか?――よし、そうだ、全部ルークが勝手にやったんだ。俺は関与してない。これは本当だ」
その男が今まで見た事が無い、冷たい表情で言った。

「な…」
本当か嘘か、全く分からない。
ウィルは煙草を取り出した。

「あいつは、俺が全て一番で無いと気が済まないらしい。まあ、何処かの犬みたいな奴なんだ。あいつは生まれてからずっと、俺の為に、そうなるように教育を受けてきたからな。ジャック…ジョンは俺の友人だったが…」

彼が煙草を吸っているのを、速水は見た事が無かった。
火を付ける。
煙が室内に浮いた。

「どうも、ジョンはあれのカンに触ったらしい。ジャック、理由を聞きたいか?」

「…」
速水は答えられなかった。
本当か、嘘か、分からない。聞くのが――。
「この子、聞くのが恐いって思ってる。本当か嘘か分からないから。ジョーカー、ゲームは貴方の勝ちで決まりね」
ルイーズが妖しく、むかつく微笑みで微笑む。

「…何なんだよ…お前」
速水はルイーズを見て頭を押さえた。速水の思考が筒抜けだ。

「くそっ…、お前等…グルだったんだな。全員か?」
速水は呟く。
エリック、ウルフレッド、アビー、ベイジル、クリフ、キース、イアン。
それに…?まさかレオンは違うだろ。

「そう。レオンとノアは違うわよ。けどベスはこっち側ね」
ルイーズが言った。
「は?」

「可愛そうな子なのよ。ノアを好きにさえならなければ良かったのに。あの子の家、凄い貧しくてね。家族を養う条件で――あら、これは知ってるのね」
ルイーズが笑った。

そうだ、ベスは家族の為に頑張って――。
「でもね。それ。嘘なのよ」

「え?」
「ルイーズ」
ジェスターがルイーズを呼ぶ。
「分かってるわ。もう黙るわよ」
ルイーズは嫌そうに頷いた。

「おい、それ、どういうことだ!?」
速水はジェスターに近づかずに声だけを上げた。こいつは危険だ。
ジェスターは煙草をふかす。
「つまりあの性悪女もお前を攫う『計画』に関わってたんだ。お前をはめた、騙し組ってとこか?」

黙っていたエリックが口を開いた。
「―ハヤミ!!違います!!ベスは確かに『計画』を知っていましたが、彼女は違います!彼女は…!!」
「エリック、黙れ。分かってるな?…ふう…全く、――本当、クイーンにあの女を選んだのは失敗だったな。まさかノアをたぶらかすなんてな。死んでくれて良かったぜ」
ジョーカーがヘラヘラと笑った。

「貴様!!」
速水は殴りかかろうとした。死んで良かっただと!!?ふざけんな!!
だが、エリックが止めた。それも必死に。
「放せ!!エリック!!お前もグルか!!敵なのか!!」
速水はエリックに怒鳴った。エリックを殴った。

「サラが人質だからな。お前が俺に危害を加えたら、彼女は解放されない」
その言葉で速水は固まった。

「…済みません、すみません…」
エリックは泣いていた。

「――ジェスター!!!貴様!!」
速水は叫んだ。
「おっと。まあ落ち着いて聞け。『計画』って言うのはな――」
ジョーカーが、速水の大声に少し驚き、パソコンの前の椅子に座った。

「長くなるわよね。あら、このケーキ食べても良い?珈琲は…冷めてるわね。まずいわ」
ルイーズは勝手にケーキを食べ始め珈琲を口にする。
彼女は速水の珈琲を馬鹿にした、初めての女だった。

…そう言えば、さっきからPVが流れている。

■ ■ ■


むかつくサイケ女と最低なジョーカーが去った後、速水は床に座りこんでいた。
ジョーカーは最後に『サラを解放しろ』と俳優のアランに電話していた。

どいつもコイツも、よってたかって。

「エリック…俺、何かしたか…?」
呆然と、速水はつぶやいた。

俺が何をしたって言うんだ。
俺はただ、ダンスが好きで、すきで、すきで、すきで、気が狂うほど好きで。
ただすきで踊ってただけだ。

もう全てに腹が立った。
馬鹿みたいな理由で、ジャックが死んだ。


――違う。俺のせいで、ジャックが死んだだと!!

■ ■ ■


三月四日。…ここは日本。
休日の夕方だ。

「あ、これジェスターの新曲だ。買ってくか」
若い男性が、CDショップで一枚のCDを手に取った。
裏返す。
ジャケットには、空と境界の無い、青い海を眺める黒髪の人物。
ほとんど背を向けているのでどんな人物かは分からない。

「ファンなの?」
若い女性が聞いた。

問われた男性はCDを裏返す。
モノクロ、暗い街の中に佇む青年。

「ああ。誰だコレ。――お。ああ。日本人は初めてだな。サク・ハヤミ…二代目JACK?知らないな」

「あ、私!その人知ってる。ブレイクダンスの人!」
「えっ、何で?お前、ダンスとか?」
「だって、ええと、あれ?ジャックって、ヤフーで見たような…。何か事故の――」
「ああ、あったな。そう言えば…って、こっちのコーナーの人か」


――如月隼人は、その会話を聞いていた。
当然、速水が出たCDとDVDを買いに来たのだ。
本人からの連絡は無かった。
ネットの告知もギリギリまで無かったらしく、少し前にテレビで大々的に宣伝され初めて知った。

言ってくれればいいのに…。

「JACKベア?買おうかなー。でも不細工」「レジ行って来る。…ついでに買うか?」

恋人達が去った後、隼人はCDを手に取った。
店員に『ついに出た!!今年のアイコンは悲劇を乗り越えた、あの『JACK』の後継者!!曲もダンスも最高の出来!!』と説明書きで大プッシュされ、小型のディスプレイでテレビで見たPVが流れている。

隣にしっかりジャックコーナーが出来ていて、そこに並んでいるのは速水がジャケットの『DVDブレイクカルチャーvol.3』…先代ジャックが出演したのはvol.1だったか。

その横には『ブレイクバトルトーナメント 2010 』『ブレイクバトルトーナメント 2011』
コーナーにはちゃっかり人相悪いクマと、もちろん先代ジャックのDVDも並んでいる。

…こんなにプッシュされてるとは思わなかった。
ここに来る途中も駅の柱にずらりとポスターがあって、隼人はたまには街に出ないと、と思って苦笑したのだ。

――隼人は知るよしも無いが、速水がPVとDVD撮影したのは、一月八日から一月すえにかけての事だった。

(サク、…いや、ジャック。頑張ってるみたいだな)
隼人は微笑んだ。彼はようやくジャックになったのだ。

画面の中で踊る速水を見ていると、誰かがさっとvol.3だけを手にとって買って行った。ごく普通の男性だった。ダンス好きなのだろうか。

休日なので店内は賑わっている。
…中高生、どう見てもダンスやってそうな若者達がいる。
「あー、サイン会とか…。やっぱり無いのか?」「去年ユーディやったよな」
「クランプって入ってるのか?」「さすがにないっしょ。まあ買ってこ!」

良かった。ちゃんと男性にも売れてる…。
隼人は変なところでホッとした。

やたら女性人気の高い速水は、ステージ時代から良くカミソリレターを貰ったりしていた。
ジャックが死んだ後はしつこい殺害予告状とか、海外からの怪しいプレゼントとか、果てはちょっとした爆発物までもらっていたりしたっけ…。

隼人は苦笑する。
最近、彼から連絡が無いけど、この分なら相当忙しいのだろう。
いい加減、僕も子離れ?しないとな。

頑張っているならそれでいい。
隼人はそう思っていた。

■ ■ ■


隼人がCDショップを出て、街中を歩いていると、携帯が鳴った。
カラスが一羽、街を歩いていた。

この着信音は…。

「もしもし?」

『隼人さん、あの…今、大丈夫ですか…』
もちろんいとこの小雪だ。

「うん。外に出てるけど大丈夫」
隼人は周囲を見て、道の端で立ち止まった。


『実は、相談が…』


〈おわり〉

 

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