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絵、時々文章なブログ(姉)

sungenのブログです。pixivデータ(主に文章)の保管用ブログ。オリジナルイラスト、小説がメイン。


sungen(pixiv genペア)のブログです。


アート、デザイン、漫画、イラスト、小説について語ったり、作品をアップロードしたりします。
漫画、絵、文章を書きます。二次創作は大神。
長編小説はヘッダのシリーズまとめから探すと楽です。







■JACK+ ⑫ メッセージ① 警告 【オリジナル小説】【JACK+】

■JACK+(オリジナル) ダンス関連 小説

さてやっとラスト⑫ですが…たぶん⑥くらいまであります…。
…このネタは使い回しです。と言うよりベタなこっちを先に考えてて、向こうが『どうかな?』と言うテスト用だったんです。これはホントです。
と言うか…ううう。速水さんいないと凄く書きにくい…!

 

次回は3月末ごろ…?別に無くても…という感じのレオンサイド&シカゴ編、そのあとやっとやけっぱち速水さんです。

【本文字数 14637文字】

20160113220738

 

JACK+ ⑫ メッセージ① 警告




――二月二十四日。夜。

『ノア。ジョーカーは、あのウィリアム・ジェスター・ヒルトンだ』
レオンは、アルバムを見せた後でノアにそう言った。

時間も無い中で、レオンはそれだけは言いたかったらしい。

『マジかよ…!!あの!?』
…あの超有名な、売れまくりらしいEDMアーティスト。
ソイツがジョーカーなら、ノアの父親はそいつ。

聞かされたノアはもちろん驚いた。そして頭を抱えた。
ベスを殺したことと言い、とんでもない犯罪者を親に持ってしまった…。

歯ぎしりばかりのレオンの話では、今居るこのイアンも…ジョーカーの計画の為に、サンフランシスコで下らない茶番を演じ、速水をグルになって騙したらしい。

速水のアパートメントの隣に住んでいた一家、――今はレオンの持つ別の物件にいる――の子供達が、彼の家を訪ねる白い髪の目立つ人物を目撃していた。
そしてルイーズらしき褐色ぎみの肌の金髪美女がいたと言う…。

そして速水が子供の頃からの計画…と来れば間違い無い。
むしろ隠す気はもう全く無いのだろう。あいつがジョーカー。
…そうだな?とレオンに聞かれたイアンは、ああ、と言って目線を床に落としていた。
イアンは深い溜息をついていた。
だから俺はいやだったんだ、――とでも言いたげに。
どうやらイアンは、最低限の事しか言わない気らしい。

速水がプロジェクトに自宅監禁されてから、ノアが来るまでの短時間に、レオンはあの場にいたアラン、ルイーズを最優先で仲間に洗わせていた。
あの二人はジョーカーの昔からの友人と聞いた。つまり、明らかに怪しいからだ。
ノアは良くそこまで頭が回るな、と感心した。
そして――レオンの仲間、ジェイラスとヤンの報告によれば、この二人はおそらく真っ黒。

…キースとイアンが、ジョーカーの命令を聞いて動いていたのは確定している。
イアン本人も渋々認めた。今回だけだった、と。
つまり今回はイアンに、ジョーカー本人から直々に『お呼び』がかったらしい。

…イアンの役目は単なる賑やかし。適当に人を貸せ。ジョーカーはそう言った。
イアン達はジョーカーに会い、馬鹿な計画を聞き当然反対したが、イアンはイアンの妹の事があるし、積極的ではない物の、…断る気は無かったらしい。もちろん断る事は不可能だったが。

あの場にいた、アビー、クリフ、ベイジルは、一昨年からずっと監禁状態の歌のジャック解放の条件がそれだった。これはウルフレッドを通じてレオンがアビーに確認済み。

その事実にレオンは心底怒っていて、今後アビー達と組むかは不明。むしろ一度裏切った相手は信用できない。そう言っていた。
…レオンはこういう所が昔のままだ。と言うかヤクザっぽい。

反対にアビー達はぜひにと協力を申し出ている。

つまり…レオンはレシピエントについて、レシピエントだというアビーに尋ねたのだ。
…速水の事を知り、向こうは血相を変え『すぐに組みましょう、会って話を』と言ってきたらしい。
そこで『ふざけるな!』とキレて電話を切ったのはレオンだ。

ノアはそれを聞いて呆れた。ジャックに感化されて大分更正したと思っていたが…やはり時々、そうでもないらしい。

ノアは協力するかは別として、「せめて一度会って向こうの言い分くらい聞けば?人質がいたんだろ?」と言っておいた。
『…分かってる…だがな…』
一応レオンも分かっているようで、そう言って溜息を付いていた。
速水がどんなゲスな方法で陥れられたのか…、それを思うとやるせないのだろう。

『今後、いや、過去も。ハヤミに一歩でも近づく奴は、全員洗う。…この茶番を止められなかった俺が唯一出来るのはそれくらいだ。…また何かあったら、すぐコイツかキースにでも連絡する。…つながるかは分からないがな』


レオンはイアンを見てそう言った。

■ ■ ■



そして現在、二月二十五日。午前十一時ごろ。
憮然とした表情のイアンと、寝坊し元気いっぱいのノアは、グレードの高いホテルを出発した。

出発が遅れたのは、ノアのせいもあるが、今、イアンの車の他に、黒服が乗った黒塗りの車が四台。
つまり、この応援を待つために遅れた。計五台の物々しい大所帯だ。

…昨晩ノアは一通り、ホテルの予約の仕方、ルームサービスの頼み方、治安を見分ける方法、その他、タクシーやバス、電車の正しい乗り方までイアンに説明してもらった。
――そこでタイムアップ。深夜一時を過ぎていたのでさっさと寝た。

「あー暇。なあ…イアン」
助手席のノアは、周囲の風景にいちいち歓声を上げていたが、すぐに飽きた。

「…今度はなんだ。一般的な質問はキースにしろ」
「イアンの出身ってどこ?何か、ここら辺じゃ無さそうだよね」
「…プライベートな質問に答える事はできない」
イアンは言った。
「あ、禁止なの?」
「いや。単純に貴様に話すのが面倒なんだ」
「…うわー、むかつく。そりゃ、俺も大概常識知らずで馬鹿だけど、ずっと下にいたんだから仕方無いよ…」
ノアは溜息をついた。

「俺、きっと皆に馬鹿だって思われただろうな…チップとか、渡しすぎてたし…バスに乗ってシカゴまでって言っちゃったし…」
ノアはうわぁ、と頭を抱えた。

その後でノアはクスクス笑い出した。
「ねえイアンには家族はいる?俺には娘がいるんだ、あ、しまった言っちゃった!」
ノアは口を塞いだ。
「…知っている」
「あ、良かった。場所は知らないのか?…まあどっちでもいいや。もう凄く可愛いくて!ハヤミが写真くれて…今も肌身離さず持ってる。元気かな…。あ、プリントアウトあるけど見る?」
ノアは懐からDVDを取りだし眺めた。でれでれと笑い、レオンに一枚だけプリントアウトしてもらった写真を、イアンに押しつけようとする。

「運転中だ。後にしろ」
「あ、そっか…。大変?代わろうか?」
イアンは歯ぎしりをした。
「質問が無いなら黙れ」

イアンがバックミラーを一別すると、ノアと目が合った。

「…質問じゃなくて、お願い。俺、シカゴに行ってベスの両親に会いたい。出来ればなるべく早く。エンペラーに頼むつもりでいる。もし駄目って言われたら、ハヤミを見習ってメチャクチャに暴れてやる…!」
ノアは拳を握った。

それを聞いたイアンは、深い溜息をついた。
「…馬鹿なことはやめろ。…どうするかはエンペラーが決める。俺は関与しない。だが…、俺たちのエンペラー…、ホレス・ニーク氏は話の分かる人物だ」

「…」
ノアは黙り込んだ。
「そんな事より…俺は、ハヤミが君に与えた影響について危惧している。彼に、地下で理不尽な暴力を振るわれなかったか?」

…暴力?
いきなり言われたノアは固まった。とても回りくどい表現だった。
「え?どういうこと?」
ノアは怪訝そうに言った。

「…君達四人は…特に、君は…恋人の事で、大変だったんだろう?…ハヤミに殴られなかったか?」
イアンはとても心配そうだ。
「えっ???……あ、あー」
固まっていたノアは、少し思い当たった。

速水はとても外では評判が悪いらしい。
イアンもその噂を信じているのかも――?

…ある日、顧客とのデートから帰ったレオンが、爆笑しながら、

『ハヤミっ、お前は何でも酷い女たらしで――、泣かせた女は数知れず。噂では、孕ませた女が十人はいるらしい。我が儘放題、すぐキれる。観客相手でもお構いなしに暴力を振るう、===常習犯。歩く===○×△ト野郎って言われてた。なんか、もうどこの誰だよって感じだな。外に出たら隠し子詐欺と夜道に気を付けろよ!』
そう言っていた。

「あー…」
…多分、地下で色々しでかしたので、それに尾ひれが付いているのだ。

病気での休養も、セッ=スパーティを開いていたとか何とか言われていたって…。
それを聞いたノアはさすがに速水に同情した。
速水は、『もう慣れた』と苦笑していたが…。

ノア自身は老若男女問わずファンが多い…、総数は同じくらいだろうに、一体何故、速水はあれほど、特に若い男性に恨まれるんだろう…。

「イアン、それって、全然違うと思う。…超誤解だ。えっと、ハヤミは」
「お前はダンサーだろう。暴力は平和的じゃ無い」
ノアはきちんと物申そうと思ったが、イアンは話を続けた。

平和的。

「――、っ平和的だと?」
ノアはその忌々しい単語にイアンを睨んだ。
速水の事は忘れた。

イアンは溜息をついた。
「ノア、…君はやはり勘違いしてる。サロンはネットワークと起源こそ同じだが、ネットワークの暴走を押さえる為に作られた仕組みで、全く別物だ。特に俺たちの所は、他と違って政府との繋がりが強い。君を推す事はためらわれたが…」

「…―、―え?」
ノアは適当に相づちを打ちそうになって、顔を上げた。
がばっと前の席に身を乗り出す。

「別の組織…!?っておい!!?―ちょっと待て、イアン!それなら、イアンは、…サロンは完全に、反ネットワークって事!?」
「静かにしろ!――だから、昨日からそう言っている」
「そんなに言ってない!!でもだったら…、おかしいぜ!何でもっと早く、ダンサー達と協力してネットワークを倒さないの?」
ノアは言った。

そして腰を下ろす。
「リ…、知り合いの話だと、サロンは役に立たないって…」
師匠の弟子の名前を出しそうになって、ノアは慌てて言い換えた。

「シートベルトをしろ。――そもそも、サロンというのは…」

昨晩、そもそも到着が遅かったこともあり、サロンについての詳しい事や、今後の事などはノアは聞いていなかった。

一般常識と外に出て疑問に思ったこと以外でノアにイアンが話した事と言えば。
『――速水達がアンダーを出た直後、ジョーカーはサロンのエンペラー、トップのメンバー、その他運営の重役を集め『実は隠し子がいる』と派手に打ち明けた。そのせいで君は命を狙われた』
それくらいだった。

「サロンって何?敵じゃないの?俺、ネットワークとサロンの連中が両方襲ってきたと思ってた」
ノアは言った。
イアンは眉を潜めた。
「君は昨日サロンもネットワークも許さないと言っていたが…それは大きな間違いだ。サロンは、元々グローバルネットワークの肥大化に危機感を抱いた創始者の一部が、ネットワークの抑制の為に作った機構だ。だから、君の認識はやはり間違っている」

「…よく分からないけど、別物って言いたいのはなんとなく分かった。イアン、君、英語下手だな。ハヤミの方が上手」
ノアは憮然として言った。
どうやらイアンは英語があまり得意では無いらしい。それでも十分流暢だが、教科書通りという感じがする。ノアには速水のラギットな言い回しの方が分かりやすかった。

「…。俺のサロンは――」
英語云々には答えず、イアンは勝手に続けた。

…ノブヒルのサロンのエンペラー『ホレス・ニーク氏』は元は政府の高官で、今は引退した老人。
ノブヒルのサロンは特に政府筋との繋がりが強い。
アメリカ合衆国政府は、ネットワークの活動を黙認しつつも、苦々しく思っている。

金は莫大に落としてくれる。だが、ネットワークの活動は主に米国領土内。
ノア達が居たアンダーも、スクールも、もちろん米国内にある。

――合衆国の国土を食い荒らし、あるいは寄生する必要悪。と言うかカルトな犯罪組織。
やはり迷惑だ、隙あらば倒せ、それが無理なら祖国から追い出せ――。

その為にアメリカ政府は積極的な反ネットワーク活動を行う『ニーク氏のサロン』を積極的に支援している。

…元々は同じ組織だが、サロンとネットワークは分かれて久しいし、サロンは単体ではネットワークには到底及ばない。さらにサロンの日々行う『反、平和活動』に関しては、ジョーカーは歯牙にも掛けないので問題無い…。つまり、ジョーカーに怒られたりしない。

「ここまでで分からない事はあったか。質問を聞いてやる」
イアンがノアに聞いた。

ノアは全部がよく分からなかったが、おおまかに理解した。
…つまり、アメリカにとってネットワークは目の上のたんこぶ。
サロンはアメリカさんを助ける、アメリカさんのお友達ドクター?

――中々治らないからアメリカはドクターに頼んで治療を続けるけど、ドクターが頑張っても、どうせそのたんこぶは直らないので別にジョーカーは気にしない…。

だいたいそんな感じかな。…そこでノアは疑問に思った。

「あ。…ねえ、サロンのエンペラーってどうやってなるの?リッ…ゴホン、知り合いの話だと、色々な場所にあるらしいけど。アメリカ政府か、その土地の人が任命するの?それともずっと世襲?」
…また馬鹿と言われるかもしれない。
そう思いつつ特に気になったので聞いてみた。

イアンが口を開いた。
「…複雑なんだ。ニーク氏や、他のエンペラーは『クイーン』が選出し、ジョーカーは関与できない仕組みになっている」
イアンの声の調子は若干柔らかい。どうやらノアの質問はまともだったらしい。
…イアンに『複雑』と言われたのもその証拠だ。馬鹿な質問だと、馬鹿か、と言われる。

「クイーン…?」
ノアは瞬きをした。

「って、ベスの事?」
ノアは言った。ノアにとっては、クイーンと言えばベスしかいない。

「いや違う、もっと大きな存在だ…。俺はクイーンについての詳細は知らないが、ネットワークの中で、彼女の力は限りなく大きい。今言ったエンペラーの選出。それとジョーカーの交代は『クイーン』の承認が無ければ認められない。エンペラー全員が候補を認めて、その後クイーンだ。そう言う事になってる」

「へぇ…」
ノアは相づちを打った。昨日で分かったが、イアンは話し出すと意外に長い。

「エンペラーは、クイーンが選出し、任命する。…理由はわからないが、どの時代のジョーカーも、彼女の選んだエンペラーによる決議・勧告にはしぶしぶだが従う。ちなみにエンペラーの選出基準は謎。…このあたりはより複雑なんだ」
イアンはノアに言って、溜息を付いた。
今度の『より複雑』は、俺はよく知らない、と言う意味の複雑だろう。

「って事は、サロンって言うより…クイーン、って女性が凄いのか…」
「…」
ノアはイアンの痛いトコらしい事を言った。

そして今度はノアが続ける。
「俺、サロンとGANはもっと――密接につながっていると思ってた。だって、イアンはジョーカーの命令でハヤミに酷い事したんでしょ?」

「…それだけ、この世界に対するジョーカーの力が強いんだ。…本当に、君にジョーカーが務まるのか?…俺達はまだ半信半疑だ。…やはり、エンペラーのお考えは正しい」
イアンは相当エンペラーに心酔しているようだ。
なぜかと聞こうと思ったが、長くなりそうな気がするのでやめた。

「…イアンはダンスで世界平和、マジで目指してるの?」
運転シートに左手を置いたまま、ノアは言った。

「…そんな訳無いだろう」
ノアの言葉にイアンはハッ、と笑った。
車は郊外。だが彼はきちんと前を見ている。

「歌とダンスで世界平和――って言いながら、GAN連中のやってることは、誘拐、殺人、恐喝、人体実験。およそろくな事じゃ無い。だから俺のエンペラーは今のジョーカーを交代させたいんだ」

それを聞いたノアは、やれやれとシートで体を伸ばした。
昨晩からの――。無駄なケンカゴシだった。

「ハァ…それならそうって、分かりやすくしてろよ。あー。緊張して損した。ねえ、…イアンの妹って美人?」

ノアはこの何気ない話題から、自然にエリーのノロケへ繋げようと思っていたのだが。

「なぜ、そんな当たり前の事を聞くんだ?…そもそも俺の母さんは。…いや、まずは母さんの、ひいひいひいおばあさんは――」
いきなりイアンがペラペラと話し始めた。


「――で俺の父親は、いやまず先先先―――」


「―――そして、ターヘレフは…」


ノアは途中で眠っていた。


■ ■ ■


良く喋ったイアンと、よく寝て起きたノアは午後四時過ぎ、ようやくサンフランシスコに到着した。

サンフランシスコ・ノブヒル地区の外れにある、エンペラー個人の邸宅。
ここに到着する間際、ちらりと見えたショーウィンドウにハート型のサングラスがあったので、ノアは車を止めて買ってもらった。折角なのでとエリーの分も、イギリスの圭二郎達や速水の分も買った。

建物の庭に車が止まる。

「うわ!…超でかい!」
ノアは車を降り、大きな建物を見てはしゃいだ。
外観は主にクリーム色、とても立派な豪邸だった。

「騒ぐな。行くぞ」
「あ、うん…」
ノアは若干緊張しつつ、イアンについて行く。
イアンが運転していた車は、黒服達が持って行くようだ。

ノアはイアンが運転したのは、彼の家族の事は置いておいて、ネットワーク関連で聞かれて不味い話を、もっと沢山する予定だったのかもしれない…と思った。

イアンは昨晩ホテルで報告、つまり盗聴しているともハッキリ言った。
ノアはイアンの趣味の悪い、サロンのロゴ入りネクタイピンがソレに違いないと思った。

…ノアは自分の今後など、聞きたい事は色々あったが結局それは聞けなかった。

唯一、ザックリと言われた事は。

『君は、これから色々な大会に出場して、実績を積む必要がある』
『そこで知名度を上げて――聞いてるか?』

ノアは薄目だった。舟をこぐ。
『うん、聞いてる…、…知名度ね…』

何だ、速水の計画通りじゃないか。
だったらやってやろう…。

ノアはまどろんだフリをしながら、内心でそう思った。

…だいたい寝たふり。
イアンの先先先代の油田発掘話を聞くのが面倒だったからそうしたのだが、重要そうなその部分だけを聞いた後、…彼は本当に寝てしまった。


…イアンの後に続いてノアが広いエントランスに入る。
「うわ」
ノアは感心しつつ上を見た。

シャンデリア。

…ホテルのも凄かったけど、ここのシャンデリアも凄い。
円形で…スリー、フォー…五段のシャンデリア。
真ん中の輪が一番大きく、そこにダイヤ型のガラスが細かくつながっている。
…どれくらい重いのだろう。掃除とか、大変そう。
夜は明かりが付くのだろうか?

彼はそんな事を考え、しばし見とれた。

イアンが正面の、階段の上で階下、シャンデリアの方を振り返っている。
階段には濃いブラウンの手すりがあり、イアンの背後、…緑の踊り場、緑の壁には大きな絵が飾られている。

階段の上を見上げたノアは今度はその絵に注目した。
ノアは教会にいた頃、色々絵画を見ていたので、それが油絵だともちろん分かる。

…何百年も前の、悲惨な、闘いの光景のようだ。
剣をもった兵士…かなり割と美化されている。
…本当の闘いはこんなに綺麗じゃないのだろう。
ノアにもそれくらいは分かる。
…ゴチャゴチャしているが、どこか心惹かれる。もう少し良く見て――。

「早く来い」「あ、うん」
ノアは慌てて階段を上がり、左に曲がって、緑の絨毯を進んだ。

片側は窓で、おだやかな光が差し込んでいる。
壁側には部屋の扉や階段、後は丸いテーブルがたまにあって、テーブルの上には蝋燭の無い銀の蝋燭台が置かれ、銀の花瓶…淡い色の花が生けてある。

テーブルに椅子は見当たらない。
「変なの」
ノアはつぶやいた。
そうして緑の絨毯の突き当たりに来た。両開きの扉がある。
扉の左右には、黒服のちょっといかつい奴がいる。

「ノアを連れて来た」
イアンが言って黒服が扉を開けた。
黒服。どうやらこれがサロンの手下達のトレードマークらしい。
そう言えば、イアンのスーツは黒でなくて濃いグレーだな、とノアは思った。

大きな扉の向こうは、意外にこぢんまりした部屋だった。
濃いブラウンの柱、緑色で銀色のフサのついた無意味なカーテン…。そこに天使の絵が飾られていた。エンペラーの後ろはハートみたいなサロンのマーク。
残り左右壁に、それぞれ一枚づつ…。やっぱり天使だった。
シャンデリアがまぶしい。ノアは目を細める。

「あれ?」
そしてノアは首を傾げた。
立派な椅子。多分、この人がエンペラーなんだろう。
けど、おじいさんだ。

…グレーのスーツを着ている。口髭のおじいちゃん。
それがノアのエンペラーに対する第一印象だった。

エンペラーは、八十?九十?くらいの老人…どこにでもいそうな、ノアが知っているレイみたいな。教会の牧師のような感じだった。
ノアは、かつていた教会を思い出し、奇妙な気分になった。

「エンペラー、こちらがノアです」
イアンは一礼をした。
「初めまして。ねえ、おじいちゃんがエンペラー?」
一礼して、ノアは聞いた。

「…おまえがノアか」
と、言ったのは、エンペラーではなく、玉座に座るエンペラーの脇に立っていた、背の高い、髪の短い黒人だった。

「…そうだけど、君は誰?」
ノアは聞き返した。
「…キース、聞いてただろ。コイツには無理なんじゃないか」
イアンが眉を潜めて言った。

キースと言う男は、でかい声で大いに笑った。
「くははっ―、まあ、昔のお前程じゃない。ああ。目付役はお前だ。頑張れよ」
「…」
キースに肩を叩かれ、イアンは眉を潜めた。
「何で俺が。お前が適任だろう」
「いや、俺は他で忙しくて。エンペラーの決定だ」

「ダンスは好きか?」
いきなりエンペラーが言った。
「え?」
イアン達の会話を聞いていたノアは、エンペラーに向き直った。

「…好きだけど」
ノアは言った。好きか、嫌いかと言われたら、好きだ。
「そうか。では、君はジョーカーになる気はあるか」
エンペラーは無表情だった。

ノアはうーん、と考えた。

「…ハヤミの事は一応、ありがとう。だから…正直に答える。俺はネットワークのトップなんて絶対に嫌だ。――けど、なれって言うなら、やってもいいかなって思う。…ハヤミとベス達の為に」

概ね正直に言って、ノアは溜息をついた。
…実はノアはジョーカーになる事に関してはもう少し乗り気だったが、他に適任がいるなら別にそれでいい。
つまりノアの他に平和的な適任者がいないなら、ノアが頑張ってやるしかない…。

「…」
エンペラーは無言だった。
「もう少し…やる気を見せた方が良かった?」
ノアは心配になって言った。
「いや。良いだろう…イアン。後で色々教えてやれ」

「…、はい」
イアンが頷いた。

エンペラーの口数は少ない。悩みが多そうに見える。
「―、おじいちゃん、どこか悪いの?」
ノアは言った。

「…単に年なだけだ。父親には似ていないな」
そう言ってエンペラーは少し口元を緩めた。

「シカゴに行きたいそうだな」
いきなり言われた。
「え?ああ、そっか盗聴してたんだっけ…、うん。地下から出る時に、クイーンだった俺の恋人…エリザベスが殺されたんだ。彼女との間に子供もいる。だからシカゴに住んでる彼女の両親に、事情を説明したい…出来る?」
ノアは尋ねた。

「…」「…」
イアンもキースも、微動だにしない。

「…無理って言ったら、この場で暴れるから」
そして言った。

「いいだろう」
エンペラーはそう言った。
何か話があるとかで、イアンとキース、エンペラーはそのまま部屋に残った。


■ ■ ■

黒服に案内されたノアは、用意された、それなりに豪華な部屋に入った。

ブルーを基調とした内装。
ベッドカバーは太い縦縞。壁には暖炉があって、その上には蝋燭や写真の無い写真立てが置いてある。
ノアはそれを手に取った。ここにエリーの写真を入れようかと考える。
だが、簡単に外れない仕組みになっていた。

…イアンに聞こう。

ノアはそれを元の位置に戻し、部屋を見る事にした。
トイレもあるし、バスもある。

一通り見て、ベッドでゴロゴロしていたら、足音と小さなぼやきが聞こえ、コンコン、と扉が叩かれた。
この叩き方は…イアンのようだ。
「どうぞ」
ノアは言った。

入って来たのはやはりイアンだった。何やら大量の冊子を抱えている。

「俺達は君の行動を逐一監視している。レッスン時以外はこの部屋から出るな。常時黒服が隣の部屋にいる。用があったらこの内線を使え」

彼はやけくそという感じで一気に言った。ドサッ、とテーブルに冊子が置かれる。
――教本のようだ。それをどけると、一番下はノートパソコンだった。
白い内線もバコ、冊子の脇に置かれた。そのままイアンは線を、暖炉の脇の壁に繋いだ。
内線の置き場所を探しているのか、少し部屋を見回す。

「まずはそれらに全て目を通せ。君には再教育が必要だ」
「げっ、コレ全部かよ?」
うぇ。と言う顔をしてノアはそれを見た。
イアンは立ったまま、腕を組んでふんぞり返った。内線はもう机の上でいいらしい。
「そんな訳無い。ジョーカーに必要な最低限の世界情勢、それもごく一部だ。いいか。明日から君には教師陣が付く。シカゴから帰ったら改めて、君の学力レベルはどのくらいか、君がジョーカー候補になれそうか、GANの連中を呼んでテストするそうだ…。それまでの最低限の予習分だ。俺は今後一切、そちらには関与しない。俺の役目は君の行動監視、マネジメ…」
「―シカゴに行けるの!?」
ノアはさえぎり、思わず言った。
「…、ああ、三月一日、ここを出発する。出発時間はまだ決まって」
「やった!!サンキュー!!ねえエリーにはいつ会える!?」
ノアは椅子から身を乗り出した。
「…それは、お前次第だ。だから真面目に勉強をしろ。それに君には危険も多い。俺はこれから、移動に常に随行する。シカゴには俺とボディーガードが最低十人。車は、君と俺が乗る分を含め六台。…君は最低でも、ずっとこの扱いだ」

「え…。じゅうにん?…六台!?ねえ、ここっていつもそんなに暇なの?それとも俺が凄いの?」
ノアは驚いて尋ねた。何気一台増えている。
仰々しい移動は今回だけと思ったら、毎回どこかへ行くたびにそうなるらしい。
勉強の下りは聞き流した。
「…ハァ。ジョーカーの実子となれば、当然の措置だ。気にしなければ良い」
イアンは溜息を付いて言った。

「ふぅん…。じゃあそうする」
ノアは頬杖を突いてペラリと冊子をめくった。

イアンは暇なのか、ノアに背を向け…壁際の小さなテーブルの上の花瓶、その中の一輪。ピンク色の花を弄んでいる。

ノアのめくった冊子には、どこかの国の予算のような?意味不明な事が書いてある…。

「うぇ…なんだコレ」
スクールでは勉強よりダンスだった。ここでは勉強が多いのだろうか?

イアンが振り返って言った。
「…君はとにかく、バトルだな。実績を積めば多少知識が無くとも補える。他の候補と闘って軒並み勝てば、トップの連中もうなずく。時間があるときは俺も練習相手になろう」

「闘うって?何で?」
ノアは目をしばたいた。
「――君は何だ?」
イアンは呆れ返って溜息ついて、袖のボタンを直した。

「―ダンサー、――ってまさか!?」
「もちろん、ダンスだ。君はこれから各国の様々な大会に出て、実績を積む。もちろん他の候補と戦績その他を全て競う」
「げ…」
ネットワークは大いに、どこまでもダンスに本気だった。

「…今までは、何となくの序列、ステータスという程度だったが…ジョーカーは本格的に後継者を選ぶ気になったらしい…。おかげで今はどこのサロンも世界平和の為に、…殺気立ってる」
イアンはやや苦笑した。

「ダンスで?世界平和?それ、まだ言ってるのかよ…」
ノアはさすがに呆れた。
手足を伸ばして天井を見上げる。

「ネットワークらしいって言えばそうだけどさー…、ハァ…ホント馬っ鹿みたい…死ねばいいのに」
死ねばいいのに。――自分の言葉に舌打ちする。

「俺は君の言動を全て報告する。だから馬鹿な発言は慎め。他にも候補はいるんだ」

今のどの辺りが馬鹿な発言だったのか、ノアにはいまいち分からなかった。
イアンはとりあえず常にイライラしているらしい。

「あ、もしかしてイアンも候補だったとか?」
ノアはイアンを指さして言ってみた。
「…俺は違う。ジョーカー候補の選出は、サロンによる、半ば自動的な推薦だが、…俺は推薦されなかった。あと君の指さしに不快感を抱く人間もいる。止めろ」

「イアンって。もしかして…ジョーカーになりたいの?」
指さしをやめてノアは尋ねた。
イアンはサロンに推薦されなかったらしい。
…途中、イアンの言葉が不自然に切れたとこを見ると、彼はジョーカーになろうとしていたのだろうか?

「…いや。今はもうなる理由が無い。それに…各国の大会での優勝、あるいはソロでの活動…俺はサロンに入っているからそれが積極的に出来ないしな…。…君も、ハヤミの為に、良く頑張れ」
ハヤミの名前を出したとき、イアンの口調が柔らかく、どこか誇らしげに聞こえた。

「…?うん、もちろん頑張る」


言って、ノアはこっそり微笑んだ。
各国の大会に出場…?
…何だ、やっぱりハヤミの計画通りじゃないか。

「あ!!じゃあもしかして、しょっちゅう外国に行ける?結構すぐエリーに会える!?」
ノアは身を乗り出した。
「―、エンペラー次第だが…可能性は―」
イアンの声色が少し変わった。もしかしなくても、出来なくも無いのだろう。

「サンキュー!!!!やったエリー!!バンザイ!!今すぐいくから!…あ俺、先にシカゴに行くんだった。シカゴってここからだと、どのくらいかる?一月くらいあれば着く?」

「いや、お前の評価次第だな」

イアンが椅子を引き、ノアの横に座る。
そしてとても嫌そうに、薄いノートパソコンを開いた。
「…君は、パソコンは使えるか」
「少しは。師匠達に教えてもらった。打つのは超遅いけど…」

イアンはほっと溜息をついた。
「なら、今日はタイピングでも練習してろ。…ソフトがあるから、ここをクリックして開く――ダブルクリックは分かるか?一日それだけやれば少しはマシになるだろう。他はもう明日でいい」
「え、それでいいの?」
「今の時代、パソコンは必須だからな。ジョーカーがパソコンも出来ない馬鹿じゃ誰もついて来ない。あとは明日から来る教師に全部聞け」
イアンは勉強は本当に教師に丸投げする気らしかった。

「分かった。けど勉強は期待はするなよ。俺、馬鹿だから」
ノアはややぎこちない手つきでマウスを動かしながら言った。

「うわ。これゲームなんだ!」
「静かにやれ。後で夕食が来る。今日は十一時には寝ろ。ストレッチを忘れるな」
イアンは言った。また溜息をつく。

「…正直、俺たちは君を扱いかねている。教育を施し、ダンスの実績を積ませ、ジョーカー候補に仕立てるが、他のエンペラー達が認めるとは限らない。君は乗り気で無いと言ったが。ジョーカーになる気はあるのか?」

「またそれ?だから嫌だけどやるって言ってる」
ノアは言った。
「…それだと、エンペラー達の説得は難しいんだ。今のジョーカー、君の父、ウィリアム・ジェスター・ヒルトンは数ある候補を全て押さえ、三十年前。若干十三歳で当時まだ現役だった父親を出し抜き、今の地位に就いた。…出し抜かれた彼の父、つまり先代ジョーカーも同じような物らしい。だから余程の傑物でないと歯牙にも掛けられない。ネットワークは権威だけの組織では無い。ジョーカーの息子というだけでは弱い」

「十三歳…!?二十三じゃなくて?……、他に、誰が候補になってるの?」
ノアは聞いてみた。

「正式に公表はされてない。噂だが…プロジェクト勢はほぼ入るな。ルイーズ、アラン、ルーク、この三人。他にもシャドーを持ってる連中はそれだけで有利だ。それに歌手、ダンサー、クイーンの目立った者、キング、ジャック、エース…上げれば切りが無い。だがジョーカーは本当に後任をもう決めるつもりなのか…?確か四十過ぎ…いや、確かにそろそろ選んでおくべきか…」
イアンはつぶやき、何か考え始めてしまった。

イアンが挙げた中でノアが反応したのは、『レシピエント』と言う単語だった。
「ねえ、…よく分からないけど。ルイーズ、アラン、ルーク?……って?そいつらも?『レシピエント』…超能力者なの?」

イアンは頷いた。
「ん?…ああ。いいや。アランは違う。プロジェクトの失敗例だ。ルークもレシピエントだが、失敗に近いらしい。…唯一上手く行った例がルイーズで、残り一人は過去の事例らしい。現在の成功例のルイーズは、本人はどう思っているかは知らないが、有力候補の一人に挙げられている…それで行けば、ハヤミも本当に危ないな…」
言ってイアンは舌打ちした。

「そうだ。…君に、…ひとつ言っておくことがある」
「何?」
ノアはゲームと格闘しながら聞いた。
マスト。…言っておかなければならない事?

キーを押すと拳銃がドウン!と発射され、紙の的に穴が開く。
ノアは頑張って探し、押している。

多分速水の話題だ、聞かないと。だが物珍しくて――。
「君には、双子の妹がいる」

銃声とともに、ノアは固まった。


■ ■ ■


「……妹っ!?」
ノアはすぐ我に返り、イアンを見た。

「ああ。名前は、アビゲイル・クイーン・ヒルトン。君は、ノア・エース・ヒルトン。…二卵性の双子だそうだ。…俺も、いまだに驚いている。まさか、そんな事はある訳無いと思っていた…。全く…、ジョーカーは…とんでもない野郎だ…」

イアンは机の上で腕を組んだ。そこから左手で額を押さえる。

「……うそだろ…!!??俺に妹がいる!?」
理解したノアは衝撃を受けた。

「ああ。エンペラーのお話だと――ジョーカーは君の事を発表し、会議室を去る直前に、『そう言えばもう一人いる』と言って打ち明けたらしい。もちろんネットワークの上役連中はまた大騒ぎになった…。…だが、全く、――実の娘にあそこまでするか?」
イアンは眉をとても潜めている。
「…どういうこと?」

「…ジョーカーは銀髪。あれは地毛らしいが、俺の知ってるアビゲイルは、黒髪に青目。つまり――偽装だ」

「偽装?」
「ああ…俺は昔、彼女に会ったことがあった…」
イアン曰く。

彼は十歳の頃、父親に連れられてプロジェクト傘下のあるハウスを見学に行った。
…彼の父はプロジェクトの支援に積極的で、プロジェクトハウスでは下へは置けない扱いだ。
プロジェクトのサブハウスは、アメリカ内に何カ所か存在する。

――その辺境のプロジェクト施設で育てられていたのが、八歳くらいのアビゲイルだった。
その時、彼女はもう黒髪で。目の色も青かった。

時は流れ。イアンは妹の為にサロンに入った。…妹の為という事もあったが、彼がダンスをするための条件がそれだった。主な理由は宗教。名前と故郷を捨て、ほぼ家出。

その頃、アビーは、『スクールにすごい歌手がいる』と、歌のネットワーク幹部の間で有名になっていた。
イアンはサロンに入って間もなくその噂を耳にして、あの子かとすぐに思い当たった。
だが、イアンを初め皆、黒髪の彼女しか知らなかった…。

「…つまりいつからかは知らないが、彼女は子供の頃から、父の命令で髪を染めて、あるいはウィッグか?紫の目にカラーコンタクトを入れて、ずっとそうやって生きてきたんだ。そうさせたジョーカーの真意は謎だが。…君達は、まだ奴の支配下にあるに違いない。……君は、『あの男』を倒し、その後を継げるのか?」


…ジョーカー。

「…」

…そいつが、…敵で。そいつを倒す?

ノアはタイピングどころでは無くなった。

〈おわり〉

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