絵、時々文章なブログ(姉)

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■喫茶アトリ~恋と夢を育むお店~ 第一章 ①【オリジナル小説】【乙女】

さて、乙女ゲームっぽい喫茶店物です。今読み返すと、乙女と言うには色々問題がありすぎる(汗)ホントに…。

この後はほのぼのなんですよ。今回は各話のサブタイは無しで。

表紙は仮。デジ絵に慣れたらちゃんと仕上げよう…。
あ、真ん中のが一応、隼人(仮)です。髪の毛のうねりを少しカットしたい。
オープン前。小雪は接客の練習中。速水はお客役。あと二秒でこぼす。

登場人物紹介とあらすじです。あらすじはラスト一歩手前まで本当にざっくりネタバレ。本編から読んだ方が…?まあ、ざっくりなのでどちらでもいいかな。

sungen.hateblo.jp

【本文字数 10599文字】

20160523130016

 

喫茶アトリ 第一章 ①


小鳥さえずる、森の片隅にひっそりと。
私達のカフェ『COFFEE&CAFEアトリ』はあります。
客席二十の小さなカフェですが、店長自作のウッドデッキのオープンテラス、落ち着いた内装がお迎えします。

悩みの種は、場所が分かりにくいのと、駐車場が無いのと、あ、これは草刈りすれば出来るからいいのかしら?まだ借金があるのと、後は…

私はメモをめくる。

ええと、後はアルバイトさんが少ないのと、サイドメニューがまだ少ない事と、目玉商品が無いことと、経営が赤字なこと?こんな事で、やっていけるのかしら…。


■ ■ ■


「いーい?シフトってのは、本当に、本当に大変よ?」
「はい」

私がここ、『アトリ』でチーフとして勤め始めて、あっと言う間に半年が経ちました。
今まで働いた事のなかった私ですが、何とか毎日、頑張って勤めています。

今、カウンターでシフトの組み方を教えて下さっているのは、オープニングスタッフの加倉井カオルさん。
彼女は有名コーヒーカフェで働いていたすごく優秀な方で、私も開店前から色々教えて頂きました。

「まずは、皆の予定を聞くことから始めてね。特に学生さんはテストとか、色々大変だから」
「ええと、はい、分かりました!行ってきます!」
ぱたぱた。
「うんうん。小雪ちゃん、ガンバ!」

「あれ…隼人さんは…」
私は店内を見回しましたが、店長の姿は見えません。
でも、この時間なら…。

「ん、ああ、小雪。ほらさっき向こうでウグイスが鳴いたよ」

あ、やっぱり。店長はウッドデッキの端に座って雀と戯れつつ、エスプレッソを飲んでいました…。
この人は店長でバリスタの如月隼人さん。名字は違うけど私とは従兄弟です。

「ウグイス?…」
私は一応耳を澄ましたのですが、…いないようです。
彼はいつも何かしら、小鳥のさえずりを聞き取っているのですが…。
彼の指す方には鳥は居たり居なかったり…。

「隼人さん、シフト組むので、都合の悪い日を教えて下さい」
「あ、僕は特に無いけど。そうだ、小雪。今度…20日、僕とバードウォッチングしないかい?ほらアオジが裏の森にいて」
「もう、またですか?」
「だめかい?」
「ふふ。もちろん、良いです。…あ、でも、ごめんなさい、その日私、出勤だったかも」

小雪ちゃん、貴方チーフなんだから、シフトも好きにいじっていいのよ。店長がこの役立たずだから、ね!はい、飲み終わったら、働け!」
カオルさんがばこん、とメニューで隼人さんの頭を叩く。
「痛いな、全く」
「鳥もいいけど、接客練習しなさい!接客!あんた小雪ちゃんより全然ヘタよ!」
「うーん、それを言われると。僕は接客はどうも」
「ふふ。そんなこと無いです、隼人さんはまあ、ちょっと変わってますけど。皆癒やされるって…。あ、カオルさん、今月後半、都合の悪い日ってありますか?あとはカオルさんだけです」
「あら。もう錦さんと倉持さんにも聞いたの?そうね、私も20日はちょっと無理かな」
「はい。じゃあ外しますね。あら…?」

この感じは。
店の入り口に車が止まり、すぐにドサッと音がする。

「おお、ジャック。ご苦労さま」
「…これ、頼まれてた分。確認済み」
「お疲れ様です。速水さん。後は運びます」
私はよいしょ、と麻袋を持ちましたが、お、重たい…。

「お持ちしますよ。早瀬さんは店内で少々お待ち下さい。こちら今回のお土産です。よろしければ店内装飾にでもお使い下さい。おい、隼人。伝票にサイン。ついでに荷物運ぶの手伝え」

このお店のロゴ入りのキャップが似合う人は通称、配送さん。本名は速水サク?仕入担当の人かと思いきや、実は隼人さんの共同経営者兼、『アトリ』副店長だったりします。
…アトリは茶道の家元だという、彼の実家が所有する土地を借りているんです。
アトリのオーナーは彼のお祖父さんですし…すごいお金持ち?

「あ、どうも…、あの、ありがとうございます!」
私はテディベアを受け取った。早口でお礼を言う。
彼は無表情のまま、ちらりとこちらを見てバックヤードに入って行った。

「あら?」
ふと見ると、テディベアのリボンに何か手紙のような物が…。
私は赤いリボンを解いてみる。

『早瀬様。良かったら今度、20日に俺と一緒に街へ出かけてみませんか?
 たまには息抜きも必要です 朔』
…朔さんって、やっぱりこの字なんだ。ふふっ、もしかして自己紹介?
速水さんのこういうスマートな所、凄く格好いいと思います。

「お店空いてる?」
「あ!いらっしゃいませ!」
お客さんがいらっしゃいました。私はお店に入ります。
いつもの席に案内します。キッチンカウンターが見える、二人掛けのテーブル席。
この方は常連さんなんです。

「あら、また来たの?」
カオルさんが話し掛ける。

「ここのレモン水は旨いからな。近いし」

この眼鏡の方は、『アトリ』近所の音大に通う、加倉井奏一さん。
カオルさんの弟です。

「お待たせいたしました」
「ありがとう。あ、そうだ。小雪君。良かったら今度、大学に来ないか?」

カランカラン。

「いらっしゃいませ。二名様でしょうか?」
カオルさんがさっとお客様に対応する。カオルさんは、やっぱり凄い。

「わー、こんなトコにカフェが出来たんだ」「内装キレイ!」
「いらしゃいませ」「あ、Jベアだ」「何飲もうか」「いらっしゃいませ!」
「今日のランチは…ベーグルサンドペスカトーレ?どっちにしようかな」
「私はパスタかな」「いらっしゃいませ」
「何か曇ってきたね」「雨は…まあ、今日は大丈夫かな?」
「すみません、注文お願いします」「こっちも!」

「はい、ただいま!すみません奏一さん。また後で良いですか?」
やっぱり、奏一さんが来ると、いつも急にお店が忙しくなるような…?
ランチの時間だから?
「いいよ。待ってる」
奏一さんは笑った。

それから慌ただしく働き、二時くらい。
「ふぅ…」
ようやくお店が落ち着ついた。

大学の演奏会のチケット、受け取ったけど返事が出来ませんでした…。
返事は電話で良いそうです。

小雪ツグミが鳴いたから休憩に入って良いよ。一時間。お昼はパスタとベーグル、どっちが良いかな?」
「今日は…、ベーグルでお願いします」
今日はアルバイトの面接が入っているので、いつもより休憩が長めです。

「すみません、面接に来た、乙川です」
「あ、はい。奥へどうぞ。小雪ちゃん~」
「はい!」
私は立ち上がった。

「―ありがとうございます!チーフ!是非、お願いします!」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
アルバイトさんの面接は初めてだから、緊張した…。
乙川耕勝さんは白上高校…、この高校は、私服で登校もできるとか。
でも髪の毛に緑のメッシュ…?ちょっと面白い子かも。

「どうだった?」
隼人さんがのぞく。
「はい、学生さんでしたけど、採用しました。条件にも合っていましたし。20日夕方からです。これで土日は何とかなりそうですね」
私は笑って報告した。
「そうか、フッ。小雪のチーフも板に付いてきたね。…よしよし」
「は、隼人さん…」
もう、また子供扱いして。でも、私って…まだまだ、どう見ても子供なのよね。
頑張らないと!
しゃきっと背筋を伸ばす。

「いらっしゃいませ」
スマイル、スマイル。


小雪、カラスが帰る時間だから―、ああ。残業三十分付けておいてね。お疲れ様」
「はい!お先に上がります」
私は店を後にした。

■ ■ ■


どうしよう、少し遅くなっちゃった…。

まだ六時半だけど…すでに辺りは暗い。
今日はお天気も悪かったし…。
お父さんに迎えに来て貰おうかしら。でもまだきっと仕事だし…。

私は暗い道が恐い。
足音、すれ違う人。近くを過ぎ去るごく普通のサラリーマンでさえも恐い。
また誰かが…後をつけて来たら、そう思うと。
自然早足になる。

コツコツ…。
後ろから…誰かが付いて来ている?
いいえ―きっといつもの気のせい。道が同じだけ―。

コツコツ…。…コツコツ…。

けれど今日のそれは気のせいなんかじゃ無かった。
どうしよう。コンビニも無いし…。
天気予報なんか気にしないで、自転車で来たら良かった。

ザザザザッ!!

突然、後ろの誰かが走り出した。
っ…後どのくらい距離があるの―?

逃げ…!!

とん。
「ひやっ!?」
いきなり肩を叩かれ私は飛び上がった。
心臓がバクバク言っている。振り返ることすら出来ない。

「…ハァ。チーフ、お疲れッス」
そこに居たのは、アルバイトの桂馬渚君。
「…!!桂馬君だったんですか…、私、驚いちゃっ、た…あ…?」

あれ、視界が暗く…。

「お!おおお、っと!?ちょっ、チーフ!?」


気が付いたら公園のベンチだった。
…私はどうやら倒れてしまったらしい。

「…実は…」

私は迷ったけど、桂馬君にストーカーの事を話した。

初めはいじめだと思った。けど、それは違っていて…。
そのせいで、今も高校に通えないこと、つらい時には隼人さんが何かと助けてくれたこと。

「結局、犯人は分からないまま…お父さんと引っ越して、もう大丈夫だと思うんだけど…、…まだ少し恐くて…。迷惑かけて、ごめんなさい。もう大丈夫」
笑って、額に置いてあった…『四露死苦!』と書かれた黒いハンカチを返す。
「いえ。店長に頼まれたんッスー。今日、チーフが歩きだから代わりに送ってくれって」
「…え、隼人さんが?そんな、わざわざ」
私はひたすら恐縮した。
朝は隼人さんが迎えに来てくれるし、帰りもほとんど送ってくれる。
私の家から『アトリ』まで、歩いて十五分くらいなのに。

(隼人さん…、いつも本当にありがとうございます)

「いいッスよ、あ、そうだ!!チーフ!紅茶好きッスよね!俺、奢ります!」
「え??…ありがとう」
あまりにいい笑顔だったから、私は思わずそう言ってしまった。

彼は一つずつ出さずに、ジュースを続けて二本買った。
がこん。がこん、と音がする。

「…んー、乙女紅茶…?旨いんスかねコレ。ハイ!!どうぞ」

「―!」
桂馬君はジュースを投げた。

「ちょっと危ないです!」
私は一瞬迷い、至近距離からの攻撃を避ける事に成功。ジュースはがん!とベンチに当たり、地面に落ちた。
そんなに、勢いはなかったみたいだけど。びっくりした…!
気が付けば私は尻餅をつき、落ち着いたと思った心臓が、またドキドキ音を立てる。

「アハハ、ゴメン、チーフ!でもチーフなら避けられると思った。今日も俺が落としたカップと皿拾ったし?皆拍手してさ。俺すげぇこの子!って思ったの」
桂馬君が、にっ、と歯を見せて笑って、落ちた紅茶を拾った。

「…あ、あれは、私の体が勝手に…ただの反射神経です」
ものすごく小さな声で反論する。あのポーズを思い出したら顔が熱い。
「あの時、手とか?ヤケドは…。あ、あー。つか、そうじゃねぇな」
「え?手は大丈夫ですけど…?」
私は手を見せる。
桂馬君は私の目をじーーーーーっと見た。

ぶちっって、何の音?

「…チーフにストーカーとか、そいつマジ殺す!!カルピスしかねぇのもマジでムカツク!くっそぉおお!!!」
彼はめりっめりっと缶を握り。ぶしゅっと、勢いよく乳飲料が噴き出した。
「きゃぁ、そ、そんな、コラっ!乱暴!」
私はぺち!と彼を叩いた。
「あ、すんません。えっと、俺…今、小雪さんが足りないんで」
「え?」
二人で笑った。


夜道を桂馬君が送ってくれる。


「あ、ここが家なの。今日は本当にありがとう。…あの、また、遅くなったら…お願いしても良いですか?」
アパートの前で、私は、勇気を出してそう言った。
「よっしゃ!!じゃ、俺のシフト夜ラスで入れといて下さい!俺、帰宅部だしラストなら平日も出られるんで!えっと次は…!」
気が付けば私はぎゅっと抱きしめられて、彼はあっと言う間にシフトを見つつ、走り去って行った。うおぉぉー!と言う謎の雄叫びが遠ざかる。

「…、…しっかりしないと!はぁ~」
ドアを閉め、真っ赤な顔で大きく溜息を付いた私でした。

小雪、20日、バードウォッチングしないかい?ほらアオジが裏の森にいて』
『早瀬様 20日、僕と街へ出かけてみませんか?』
『今度、20日に大学で春演奏会がある。君は来られるよね?』
『!!じゃあ、よろしくお願いします!20日からですね!』
『チーフ!夜ラスで、入れといて下さい!次は…20日、送るッス!』



ぁああ!!もうっ!…次のシフト、どうしようっ。

■ ■ ■


――なんて、考える必要は無かった。


家に帰った私は、お父さんと夕食を食べ、シフトを組みながら夢中で流行のドラマを見て。
その後お風呂に入りました。

「そう言えば、音大の方が騒々しいな、小雪
「そう?事故かしら…テレビを―」

時刻は十一時五十分。
私が時計を見た時…カオルさんから電話が。
小雪ちゃん!!お店がっ!!ニュースでっ!!』

「おい、小雪っ」
「―!!」
私はアパートを飛び出した。

パジャマのままで、サンダル。けれど無意識にコートを持って来ていたらしい。
曲がり角でコートを落としたけれど、そのまま走る。
黒く重たい煙。サイレン。その先に。

――お店が、轟々と燃えている!!森も!!


「おい!隼人!隼人!?はやと!!!!」
速水さんが、携帯に叫んでいる
「もっと離れて!!」「おいっ!!」
彼は、携帯を投げ捨てお店へ駆け出そうとして、消防の人に二人がかりで止められた。

「隼人が!店長が!まだ中にっ!!!!」

(!!…うそ…!!)
あの中に―!!

「いやぁああぁ--------ーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」


…炎は森を少し焼いて、明け方ようやく消えた。
そして焼け跡から、男性一名。



隼人さんが、…死んだ。

■ ■ ■


次の日、警察がアパートに事情を聞きに来て。
まだ分からないけど、隼人さんが何者かに、刺された後で…火を付けられた可能性がある…と言われた。
それから、少しの間、私はどうしていたのか覚えていない。

気が付いたら私の部屋は散らかっていた。

さらにしばらく後。
『隼人が戻ってきたそうだ。会いに行こう?』そう父に言われて私は出かけた。
私のアパートから車で四十五分ほどの…なじみ深い彼の実家。
けれど着いた先で私が見たのは、もうお骨になった隼人さんだった。
親戚だけでお経を聞いた。皆がすすり泣いていた。
私は途中、外に出て…庭の片隅で泣いた。

「…っ、隼人さん、隼人さんっ…、隼人さん…はやと、さん…っ」


もう涙が涸れるくらいに、泣いたのに…。


…その日の午後、隼人さんの住んでいた1LDKのアパートに、アトリの皆で集まった。
隼人さんのご両親が、速水さんと相談し…片付ける前に皆を呼ぶ事にしたそうです。
私と私のお父さんが着いたときには、もうアパートの前に皆が集まっていました。

「…」
副店長の速水さん、焙煎士の倉持さん、寿さん、桂馬君、乙川君、カオルさん―。
誰も何も喋らなかった。

速水さんが慣れた様子で鍵を開け、皆で背の低いガラスのリビングテーブルを囲む。
隼人さんの家には初めて入ったけど。
やっぱり、壁には鳥の写真がいっぱい貼ってあった。

…森みたい…。

「速水君…これから、どうする…?」
カオルさんが、机の上の、隼人さんが開いたままにしていた雑誌を、少しよけて言った。
捜査は終わった後だった。

「… とりあえず、今月のお給料は20日には…振り込みます。早瀬さんすみませんが、シフトのコピー貰えますか。雇用契約に関しては、雇い止め…即日解雇と言う 形で…。後日、各種書類をご自宅に郵送させて頂きます。…学生さんパートさんは、片付けの手伝いは大丈夫ですから、…気持ちが落ち着いたら、新しい勤務先 を探してください。アトリは」
速水さんも疲れているみたいだった。俯いたまま、事務敬語で淡々と話す。

「…アトリは…、継続不可能です」
速水さんの言葉が、重くのしかかった。

「そう、ですか」
私は、それだけを呟いた。

私の。隼人さんの。皆の憩いのカフェ。
それがなくなった?
一体、なぜ?……どうして?

ピンポーン。

「皆さん、遅くなりまして、すみません…」「この度は…」
列席者の見送りをした隼人さんのお父さん、お母さんが入って来た。
「あ、私…お茶を煎れます。キッチン、お借りしますね」
カオルさんが立ち上がった。私も手伝おうかと思ったけど、立ち上がる力が出なかった。

「…チーフ…、…」「…あの、…」
桂馬君と乙川君が声を掛けてくれたけど…良く聞き取れなかった。

コトン…。

皆の前にコーヒーが置かれる。
「…速水君、借金、あるんでしょ?」
カオルさんが言った。
「俺の方は…まだ何とかなるけど…、隼人は…おばさん、大丈夫ですか?」
速水さんが聞く。
「ええ、まだ分かりませんが、…皆様にご迷惑は…」
隼人さんのお母さんが言った。
「いいえ!!…俺に出来る事があれば、何でもします!!…でも、そんなの…」
速水さんは、テーブルの上で拳を握りしめ、…肩を落とした。
その後も、大人達は色々と今後の話をしている。
私や、アルバイトの皆はそれをだた見ていた。

「あった…!」

その声が聞こえ、皆がそちらを見た。
「あった、あったぞ…、…隼人っ、」
机の引き出しを開け、叔父さんが泣いている。

「…小雪ちゃん…、小雪ちゃん…、これ、隼人から…」
そう言って叔父さんから手渡されたのは、赤い小箱に入った指輪だった。

「…叔父さん…、こ、これ…?」
シルバーで赤い宝石の。しっかりと箱ごと握らされる。
「隼人はな、…お店が落ち着いたら、小雪ちゃんにプロポーズするって。言ってたんだ。でも小雪ちゃんの誕生日は来月だから、待ちきれなくて、もう指輪買ったって…、っく、電話で、言っててなぁ…あれが最後の…。…さいごの…」

「う、うそ…」
私は目を見開いた。

隼人さんが、私を、好きだった?

「気の早い子だったよ…、けど、もう…、っもう…」
おばさんが泣き崩れた。
「…早瀬さん…!!っ、俺、聞いてたんだ…。それを先にこっそり伝えよう、なんて…。思って、て。たのに、…っ馬鹿野郎!なんで死んだんだ!!」
速水さんが泣いている。

「……っ」
私はまたぼろぼろと泣いた。
あることに気がついて。

(私は、隼人さんが好きだったんだ…)

いま、それに初めて気が付いた。
私の好きの一歩手前で、隼人さんは死んでしまったのだ…。


「私達は、そろそろ、お暇します」
カオルさんが静かに言った。皆が…動かない速水さん以外、立ち上がる。

「なんで?」
指輪を見て、私は呟いた。

小雪?」
お父さんが首を傾げる。
「なんで、なんで、なんで、なんで…?」
小雪ちゃん?」
カオルさんが立ち止まる。
「お母さんだって、殺されたのよ!何で!」
小雪っ!」
お父さんが止める。
「あれも!!あれだって放火よ!!なんでっ!何でなのーーーーーーーーー!!」
「落ち着け!小雪!…皆さん、…こ、小雪、父さんは皆を送るから!兄さん、とりあえず出よう」
「ああ、さ、皆さん―」

皆が出て行った。
私は、指輪を眺める。婚約指輪?結婚指輪?
そういうときは普通ダイヤモンドだと思うけど…。
それに似つかわしくない、鳥の目みたいな、小さな赤い宝石。
けれど、私の好きな。
ああ、この石――。隼人さんは、やっぱり、私を分かっていた。

「くやしい!くやしいっ!くやしいっ!!」
私は指輪をつかみ取り、空っぽの小箱を壁に投げ付けた。ぱぁん!と大きな音を立てて箱がはじけ飛び壊れる。

「は…早瀬さん?」

今部屋に残っているのは…驚いたようにこちらを見る、隼人さんの親友。
速水サク、――ジャックだけ。


「速水さん。私…隼人さんが、居なくなってから、ずっと、ずっと、考えてたんです…。お母さんと、隼人さんを殺したのは、同じ人じゃないかって…」
ジャックは驚いた。
「なら、警察に事情を…!」
「もう話しました…。でも、でもっ、貴方の相方の―、先代のジャックさんが死んだとき、事故で片付けた警察が、あてになるんですか!?」

「―!!っ」
ジャックが目を見開く。

速水さんはかつて…、JACKと呼ばれた伝説のダンサーとダンスユニットを組んでいた。
先代ジャックは速水さんと同じバイト先…。つまり、隼人さんとも同じバイト先だ。

当時、実家を飛び出しブレイクダンスをやっていた速水さんは、そのジャックに誘われ…『JACK+』を結成し、同年『JACK+』は世界大会で優勝。
その直後のホームハウスでのダンスの最中、ステージ上で、ジャックの目の前で、ジャックは死んだ。
翌年、速水さんはジャックの志と名を継いで、同世界大会に出場。
惜しくも二位に留まるが…スポーツメーカーとのスポンサード契約を結び、二代目ジャックとしてソロでの活動を開始。
しかし三年前、突如としてショウビズの世界から身を引き、その後、消息を絶つ。
噂では、先代ジャック殺害の犯人を捜し、地下で行われる危険なダンスバトルに身を投じていたなどと言われている―。

アトリにいるのが、信じられないような経歴。
それが隼人さんの死後、私が調べた、この人だった。
小雪と、もう一人…ジャックの為にお店を開くことにした』
隼人さんはそう言っていたから…。

「…君は、これからどうする?」
「私は…」

私は俯いた。

私は…どうしたいのだろう?
警察の代わりに、犯人を捜す?…私は、探偵じゃない。
それに、そんな事をしても…、隼人さんは帰ってこない。
指輪が手からこぼれことん、と音を立ててテーブルに落ちた。

私は思い出す。
看板ができて、それを初めて広げた…幸せな時を。

『ほら、小雪、ついにできたよ!間に合って良かった!』
私ははたきを置いて駆け寄った。
『…あとり?あっ、もしかして、やっぱり鳥の名前ですか?』
『そうだよ。ええと写真は…ああ、これだ』
スマホを覗き込む。
『わ、可愛い…!』
『冬―、雪の似合う、小さなアトリ。ほら、小雪みたいで可愛いだろう?』

(もうっ、…隼人さん、私、そんなに小さいですか?)

もうずいぶん、大きくなったのに。
近づくとすぐに飛び立つ、貴方の隣に居られるくらい―。

『隼人さん。一緒にお店、頑張りましょう』

(隼人さん……っ)

「私…『アトリ』を、再建したい…」
「…」
「いいえ、私、絶対にアトリを再建します。どのくらいかかるか、分からないけど、ぜったい、絶対に…!!」


泣きじゃくる私を見て、ジャックは笑った。

 


■ ■ ■

「あの土地はリースだったから…、片付いたら、お返ししようと思ってるんだよ」
「…え?」
私は聞き返した。

私が落ち着く頃を見計らい、戻って来た叔父さんが、私にそう告げた。
お父さんは、他の皆を車で送っている。お父さんは…皆と、何か話したいのかもしれない。

小雪ちゃんには申し訳無いけど…ごめんねぇ…、出来ればずっと取っておきたいんだけれど」
おばさんもそう申し訳無さそうに言った。
「…、そうですよね。分かりました。私は大丈夫ですから、気にしないで下さい」
私は呼吸を整えてそう言った。
どきどきと心臓が早鐘をうつ。冷や汗がでる。

「…早瀬さん。そろそろ行きましょう。お家までお送りいたします。…おじさん、おばさん、本日はお邪魔いたしました。…何かあったら、いつでも連絡下さい」
ジャックがそう言って、私達は隼人さんのアパートから出た。

階段を下り、通りに出て隼人さんのアパートを見上げる。
…ここもすぐに引き払われるのだろう。
そう思うと、悲しく、寂しく、やるせなくなった。
隼人さんのいた場所が無くなっていく…。

けれど。私は大丈夫。だって―。

「速水さん」

「…何でしょう?」
薄暗い夕闇の中で、ジャックは微笑んでいる。

私は勢いよく頭を下げた。
「失礼な事を言います。…私に、あの土地を下さい…!!」

さっき土地を手放すと聞いた瞬間から、私は本当に馬鹿な事を考えていた。
あの土地と森は、『アトリ』オーナーである速水さんのお祖父さんの土地だ。
だったら、速水さんに頼めばあるいは―?

「もちろん私には買う事はできませんけど、せめて…、あの土地を借りるお金が用意できるまで、他の方に貸さないように…、速水さんから、オーナーにお願いしてもらえませんか…!おねがいします…っ」
私の声はどんどんかすれ、最後の方は声にならなかった。なんて、不躾なお願いだろう。
赤い宝石の付いた指輪を、ぎゅっと握りしめる。

でもきっと私にしか、出来ない―。
『アトリ』を風化させず、隼人さんのいた場所を残すことは。

「…そうだね。もちろん、そうするつもりだよ」
「!!」
私は返って来た答えに驚いた。
駄目と言われると思っていた…。
「指輪、見ても?」
「え…、は、はい」
速水さんがぽかんとしたままの私の手から、指輪を受け取った。

ルビーの指輪。…隼人らしい。あいつロマンチストだったよな」

けど君に良く似合う。
そう言ってジャックは笑い、ゆっくりと私の指に指輪をはめる。
彼はちょっと迷って、左手の中指に。


「クイーン」
ジャックは私をそう呼んだ。


「俺と一緒に『アトリ』を再建しよう。隼人の為に…あの場所でまた、お店を開くんだ」

彼の指先は、すぐに離れた。

〈おわり〉

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