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長編小説はヘッダのシリーズまとめから探すと楽です。







■長すぎたので分けました。JACK+ リベンジ 【お試し版】 速水チーム ③ 

 いわゆるサービス回。仮なので②とまとめたかったけど長すぎた。

速水チーム③…はノアと速水が初レッスン後、部屋に戻ってきて雑談…と言う感じ。ボーカルトレがカットされてます。唐突に始まる系。5月27日。これも別段取っておきたいネタというわけでも無いので出してみます。こちらは番外編としてややまとまってるかも。ちょっと長い。

※一部修正。サウナの扉をお洒落に。あと産後とあったので修正(^^;)まだ出産前です。

【本文字数 10600文字くらい】

20160727001116

 

リベンジ お試し版 速水チーム③

 

「…最近思うけど。俺の頭が色々おかしいのも、きっと悪い事じゃないんだろうな…」


ノアと一緒に初ボーカルトレーニングを終えた速水は、部屋に戻り、テーブルに肘をついてそう呟いた。向かいの席にはノアが座っている。

「ほら、今もそっちの方にスズメがいるだろ?」
速水はノアの後ろを指さした。

「げっ」
とノアが振り返った。
もちろんいない。

「…どこ!?」
ノアが震え上がって、速水は苦笑した。

「そんな、ただの幻聴だから。居ないって。俺に聞こえるだけ…」

ちゅん。
ちゅん…。

――二羽か。
「そこに一羽、そっち辺りに一羽」
速水はテーブルの近く入り口付近と、ノアの後ろ、ベッドの方の床を指さした。
「げっうそ、って…ちょっと待てよ!―そんなにハッキリ分かるの!?」

「まあ、…」
速水はガタリと立ち上がって、テーブルの側のスズメを追ってみた。
ちゅん。ちゅん。

試したことは無いが―、この鳴き声を捕まえられないだろうか?
もっと言えば…手のひらに乗せたりできないだろうか?
この辺りかと、床に手を伸ばす。

ちゅ。

「あ…」
声が消えてしまった。耳に手を当てるが、聞こえない。

「…逃げたな。スズメは警戒心が強い。ハトならもう少し近づけるかもしれない…」

ノアは速水を見た。
「…ねえ、それって、本当は」

…速水は、相当ハッキリ聞いている。
それはもしかして、鳥が本当にそこにいるのでは?

「ん?」
速水は珈琲でも煎れたらハトが来るかな、と考えてカップを手に取っていた。

「あれ…、変わってる?」
部屋の端の棚に移動していたサイフォンを見て速水は呟いた。
…いつのまにか新品になっている。
むしろ色々増えている?
他の段を見ると、小型のエスプレッソマシン…珈琲豆も数種。ケトルと紅茶類まである。とても嬉しいが、何故だろう、と速水は首を傾げた。


「いや…、違う、絶対違う」
――ノアは幽霊が怖かったので、自分に言い聞かせた。
カタカタ背筋が震える。今日はベスと一緒に寝よう…。

足音が聞こえ、ガチャ、と扉が開き、目隠し手錠のレオンとベスが戻って来た。
レオンとベスもこの時間はボーカルトレーニングだった。

「あ、ベスおかえり!どうだった?具合は?」
ノアはホッとしてベスに尋ねた。
「ええ、大丈夫。―でも難しいわ。歌はあまり得意じゃ無いの」
彼女の表情は冴えない。

速水はレオンを見た。そう言えばレオンは歌はどうなのだろう?
「レオンは?」
「…ダンサーが歌とか、要らないと思うんだ」
レオンはそう言って、椅子に座った。正直ダメらしい。
「レオン、落ち込まないで、私もあなたと似たような物だから…」
ベスが嘆息しつつ、レオンを慰めた。

「あ、レオンと一緒にやったの?」
「ええ」
ベスが頷く。
…アンダーの、この施設では他のチームと顔を合わせた事は無い。
それなりに広い建物なようだが、構造がサッパリ分からない。
上にも横にも広い感じはするが、迷路のように入り組んでいる。
サンルーム1という物があって、そこは地上で、周囲はガラスに囲まれている。その外の風景は塀。手前に少し木々。
サンルーム2は天井が硝子張りの広い部屋で、日光浴に最適。

たまに足音や扉の音がするので、他のチームも居るのだろうが…鉢合わせしたことは無い。
他チームとの結託を防ぐ為だとは思うが…?

レッスンは端末で時間を告知されて、勝手に連れて行かれ、終わったらまた目隠し。
自主練は端末で空き部屋やスタジオを押さえる。

速水がヤバかった折に部屋の外へ出たレオン達の話では、廊下は監獄のようで、部屋が間隔をあけて並んでいる…らしい。
隣の生活音はほぼ聞こえない。耳の良いノアもたまにしか聞こえないと言っていた。

しばし四人はそのことについて話した。
ここはどの州だろうか等。つまりは雑談だ。
「シカゴより暖かいわよね」
「この州に地下組全員いるって事は無いよね。幾つも拠点があるのかな?」
ノアとベスが首を傾げる。
「ロスの季候に似てる気もするが、さすがにカリフォルニアって事は無いだろう」
レオンが言った。
「…ミズーリとかか?真ん中あたり…アメリカって広いよな」
速水も首を傾げる。

これはたまに繰り返す話題で、通例通り結論は出なかった。

コンコンコン、とドアが三回ノックされた。

「あ、ご飯だ!」
ノアが立ち上がった。
速水とノア、レオンもそれぞれのスペースに戻って、シャッとカーテンを閉める。

ベスはクイーン用の部屋の扉を閉める。

配膳・回収の間はカーテンを開けてはいけないルールだ。
トイレ、風呂に居ればセーフ。
初めは面倒だったが、もう慣れた。

ガラガラとワゴンが引かれてそれが止まり、カチャカチャと配膳される。
いつも三名が来る。
配膳係が去って、ドアが閉まったら適当に出ていい。
速水はカーテンを開けた。
正直、この時に脱走が出来そうだが…、その先は警備が厳重だとエリックは言っていた。突破できるか試すのも良いな。――まあ、止めておこう。

今日の夕食はそれなりに凝った物だった。
食事は一人分ずつ、でかいプラスチックのお盆にのせられている。
メインは切り分けられたスペアリブ、サラダ、パスタ。パン。スープ。デザート。
「おお。最近まともだな」

ちなみにウルフレッドが居た時が最高で、彼が抜けて元に戻り、最近はまた少し良くなった。
「栄養に気を付けてる感じよね」「ああ」
産前のベスがクスリと笑った。病み上がりの速水も苦笑する。
ちなみにベジタリアン、アレルギー、宗教などは申請したら別メニューになるらしい。


食事の前はお祈りだ。

「主よ、今日もご加護をありがとうございます…感謝します」「アーメン」
ノアとベスはキリスト教の文言。
レオンはネックレスに手を当てて謎の黙祷。
速水は少し待って、終わるのを見計らい手を合わせてイタダキマス。
「さて食うか」「あー!腹減った」
レオンが言って、楽しい食事の始まりだ。ノアも早速食べ始める。

「デザート、あれ?コレ何?」
ノアは首を傾げた。見た事の無い物だ。
「あ。これ日本の…プリン?」
速水は初め何か分からなかった。あまりに久々すぎて、頭が違う物だと認識した。

プラスチック容器に入ったプリン。三個セットで売っているような…。
「へえ?プディング?」
ノアは先にそれを食べてみた。
「違う、プリン。あ、デザートだけど…、まあいいか。気に入ったら俺のもやる」
「ん、サンキュ、けどどうだろ?あ、美味しい!」
「俺は肉はウェルダンが良いんだが…、まあ、前より良い味になったな」
「これって、調理係の腕が上がったのかしら?不思議よね」
ベスも同意しスープを飲む。
「味付けは同じ感じだよな。そう言えばレオンの宗教って食べられないもの無いのか?」
速水はパンをちぎりながら言った。
「特に無い。人生は踊って楽しむ物だってフランクな教えだ」
レオンは笑った。

食べながら、速水は、運営も毎食用意は大変だな、と思う。運営が何名いるかは分からないが、ほとんど病院のような感じだ。
――扉を三回ノック、これが片付けの合図。
三十秒後に詰めているヤツが入って来て、出て行くまで二、三分。それまでカーテンを開けられない。

そうして食べ終えて、速水は手を合わせた。
「ごちそう様。皆、もう良いか?」「ああ」「待って、デザートとパンは後で…」
レオンが答え、速水は少し待って、テーブルを立ちドアに向かった。ベスがプリンとパンを冷蔵庫にしまう。

速水はノックをしかけたが―。

ガタン!!と椅子が倒れる音がして、振り返った。

「おいノア!?」
レオンの声がした。

ノアが風呂場にバタバタ駆け込み、吐く音がした。

「!?」「おい!」
「ノア?」

扉の側に居た速水は、慌ててノアを見に行った。
「どうした!?」
「ノア!!―まずいわ!エリックを」

ノアは蒼白だった。
速水は、はっとし、戻りドアを叩き叫んだ。

 
「エリックを呼べ!!急患だ!!」

■ ■ ■


エリックが駆け込んできて、ガスマスクによって応援が呼ばれた。
「ああノア、しっかり!」
「付き添いは?」
速水は医者に聞いたが、ノアは速攻で運び出された。
そして「NO!」と切迫した表情で言われた。

原因は不明だが、おそらく食事。

急ぎだったからか、医者は今、エリックに渡され仮面を付けたところだ。
「君達は何とも無いか。めまいは?」
仮面を付けた医者が言った。
「ああ。大丈夫だ」「今のところは何とも無いわ」
レオンが言った。ベスと、速水も頷いた。
「何かあったら、すぐ教えて下さい」
エリックが言った。
そして医者とエリックは食事の検分を始めた。

三人は脇にどいた。

妊婦のベスは腹を抱えてベッドに座り

「食中毒かしら…ああ、ノア…」と心配そうにしている。
「それにしちゃ早くないか」「…ベス」
レオンが言って、速水はベスに彼女の上着を渡した。

「…これは?」
そして医者はすぐにプリンに目を付けた。
「ああ、これは今日のデザートです。ジャパンの…」
エリックが言った。
「なるほど」
単に知らなかったらしい。
「おい。それ…ノアが二つ食べたヤツじゃ無いか?」
「あっ。ハヤミが食べなかった物だわ」
レオンが気が付き、ベスが言った。

食事は、皆同じメニューを食べていた。
…速水は何とも無い。ベスもレオンも。そしてレオンもプリンを食べたが何とも無い。
「…まさか―?それか?―冷蔵庫にあるよな」
速水は言った。ベスの分がまだある。エリックは冷蔵庫を確認したが、触ることはしなかった。

二十分ほど待つと、スーツに仮面の運営が四名入って来た。
一人は男性、三人は女性。仮面をしているが、…いつもの見慣れたメンバーだ。
運営はエリックや医者と短く話す。

「ノアは?」
ベスが真っ先に運営のリーダー格らしい女性に尋ねた。
「胃洗浄をし、容態は落ち着いたそうです。しばらくこちらで身柄を預かります。貴女は安静にして下さい」
「…!…よかった…」
ベスがホッとして涙ぐみ、ノアのベッドに座る。そして神に何度も祈りを捧げた。

速水もほっと息を吐いて、首を傾げた。
「ベス良かったな…。けどプリンって?アレルギーじゃないよな…ノアは卵平気だし…」
「まさか…やっぱり毒でも入ってたか?」
レオンが言った。
速水もそれは思ったが、まさか。

「…他に体調に変化のある者は?」
再び、今度は仮面の運営、男が尋ねた。三人はまた首を振った。
そして、また状況を詳しく聞かれ、冷蔵庫のプリンとパン、そして食器は全てそのまま運営達が持って行った。続いて医者も退出する。

速水は食器を動かして良いのか、と思ったが、運営は手袋をしているし、大丈夫なのだろう。

犯人とか、分かるのか…?
「エリック、原因って、分かったら運営からお前に教えて貰えるのか?」
速水は、去るエリックに尋ねてみた。
「いえ。おそらくは…ダメでしょう」
エリックは首を横に振った。分かっても教えて貰えない、という事だろう。

そこでエリックが速水に向き直った。
「それよりハヤミ。もしかしたら、問題があったのはノアのデザートでは無く、あなたのデザートだったのかもしれません。あるいは、誰かが何かを…」

…速水はノアに二個目のプリンを渡していた。
速水が口にしなかったのはそれくらいだし…、ノアは初めに自分のプリンを食べていたが、最後まで平気そうだった。
食中毒にしては急だし、ノアが最後に口にしたのは速水のプリンだし。どう考えてもあれが一番怪しい。

あるいは…誰かが何かを混入した?

「だよな…。もし何か…分かったらでいいから、こっそり、教えてくれないか?」
「はい。もちろん」
エリックは頷いた。

■ ■ ■


「ただいま。もーホント、酷い目にあったよ…!」
ノアは翌日の夕食前に戻って来た。幸い症状は軽かったらしい。
「ノア!良かった…!!」
ベスが抱きついて、二人はノアのベッドに座りイチャイチャし始めた。

「ノア、大丈夫だったか…?」
速水はノアの方へ近づき尋ねた。

「うん何とか…―っていうかあれ、ハヤミのプリンのせいじゃない?毒とか?」
ノアはベスの頭を撫でながら、速水を見て少し困った様に言った。苦笑だ。
「そうかもしれない。原因が分かったらエリックに、教えてくれないかって言ってある…もしそうだったら本当にごめん」
速水は謝った。

「いいよ別に。だって俺が貰ったの偶然だし。ハヤミが無事で良かった!」
「…!!っ」
そう言ってにっこり笑ったノアを見て、速水は衝撃を受けた。

ハヤミが無事で良かった!?

…俺のせいで死にかけたのに。無事で良かった!?
ノアは、――ノア。なんて良い奴なんだ。まぶしくてめまいがする。

「どうした?ハヤミ」
ふらりとテーブルに手をついた速水を見て、レオンがいぶかしげに言った。

「まだ生まれない?良かったー俺それが心配で心配で。ほら、ストレスとかきっかけになるってエリックが言ってただろ?」
「きっとこの子、空気読んだのよ。明日から医療スタッフが来てくれるの。どんな人達かしら?」
ノアとベスは楽しげに語らう。

「いや…違う」
速水は一人拳を握った。

俺のせいで?悪いのは犯人だ。

もし食中毒じゃ無いなら。
今回の速水の立場的に、一矢報いるのが当然だ。

「ねえベス。心配した?」「したわ…もうっ心配させないで。ノア、大好き」
ノアとベスはまだまだイチャイチャしている。この光景は尊い物だ。

「…ノア、絶対、犯人を見つけてぶっ殺してやるから、安心しろ」
速水は微笑んで、そして思ったままを小声で呟いた。穏やかに。
「ハヤミお前な」
レオンが呆れたように言った。

「あ、それでレオン。俺の明日の予定は?確かカポエイラだった?」
ノアが聞いた。
レオンが充電してあった端末を取り、指を滑らす。
「ん?ああ、―ノアは休みだな。変更されてる。が、ベスはサンルーム1でフリートレーニングだ。残念だったな。部屋で寝てろよ。で俺とハヤミは―?…ん?なんだコレ」

レオンはおかしな顔をしていた。

「何だ?」
速水は横から端末を覗き込んだ。

「エステ…だと?」
レオンが言った。
「…エステ?何で?」
速水は首を傾げた。確かに書いてある。が一体何故?

レオンの方にベスとノアがお互いに抱き合いくっついたまま来た。
ノアが首を傾げる。
「エステってクイーン用のアレ?重り付きランニングの間違いじゃ無いの?」
「紐無しボルダリングか、パラシュート降下訓練の間違いかもしれないな」
速水は言った。

「まあ、そんな所だな」

レオンが答える。スケジュールはたまに急な変更や割り込みがある。押さえていた広い練習室が取れない事も、純粋な記載違いもある。今回もそれかもしれない。


「あ、そうだハヤミ、俺もう、これからプリンは食べないから」
ノアは速水にそう言った。
今回の件はトラウマになってしまったらしい。

「――分かった。…もし食べたくなったら、俺が最高の材料で作ってやる」
速水は笑った。にこやかに。

ノアから『プリン』を奪った憎き犯人…。

「…ハヤミ、何か笑顔がコワイよ。どうしたの?」
「なんでもない、ノアは気にしなくて良い…」

「「…ハァ」」
レオンとベスが二人して溜息をついた。


■ ■ ■


…そして、翌日。

「まさか本当にエステとはなぁ~」
うつぶせのレオンが、仮面付きの男性に背中をマッサージされつつ、心地良さそうな声を出した。
「ホント、まさかな…」
隣でマッサージされている速水も、目を閉じて微笑み、同じ様子だ。

二人が連れて来られたのは、ベス及びクイーンが定期的に連れて来られるエステ用の場所。
ここは、速水達が収容されている建物の…中か外か。とにかく近い。
内装は意外に上品で、ベスに聞いた通り、それなりに高級感がある。

ここに初めて来て、目隠しを外された速水は首を傾げた。これはまるで総合レジャー施設だ。

そこで二人は何だかサッパリよく分からないが、代わる代わるの仮面エステティシャン達に磨かれている。もちろんエステティシャンは全員男性。

速水とレオンは、午前中は顔面にあやしい緑色のパックを塗られたり、足裏マッサージやO脚矯正を受けて悲鳴を上げたりしていた。
昼飯はよく分からないスムージーだった。
…ベスの話が確かなら、このあとサウナとジャグジー。そしてヨガ。

エステティシャン達は間違い無くその道のプロ。心地よすぎて、速水はうとうとして来た。レオンも、今はたまたま速水の方を向いて、同じく眠そうにしている…。

「そうだ…そういえばお前等どうしてんだ?ノアと言い、脇とかスネとかツルツルだろ」
レオンはそう言った。

…そう言えば午前中、レオンは不思議そうに速水の足を見ていた。
「え?あ、俺は永久―いったた!」
「お客様、肩、凝ってますね」
「痛った…そうかな…?ノアも部屋でやってるだろ。見てなかったか?」
「そうだったか?――あ、そういや…」

そんな感じでマッサージが終わり、速水は簡易ベッドに起き上がった。
速水は腰のタオルを巻き直した。バスタオルで色は濃い青。私服は来てすぐに持って行かれたままだ。午前はエステ用のガウンがあったが、午後からそれはどこかへ消えた。

少し伸びをし、速水は立ち上がる。
マッサージオイルでベタベタして気持ち悪いが、やっぱりたまにはこんなのも良いなと思う。デトックスと言った所か。…少々やり過ぎ感はある。速水は逆に疲れてきた。

「次は軽くシャワー、その後にサウナとなっております」
速水達にかけれていたタオルを畳みつつ、仮面エステティシャンが言った。
「あちらへ…どうぞ」
もう一名がかしこまって先を促す。

レオンも立ち上がる。
「じゃあ、行くか。悪くは無いが…さっさと終わらせたいしな」
「そうだな。…サウナって要るのか?」
レオンと速水は案内に従って部屋を出ようとした。
そこで仮面が。
「あ、そうでした」
と言った。

 

■ ■ ■

「では、こちらのバスタオルを二、三枚、お持ちになって入って下さい。十分ほど入り、その後で隣の水風呂、その後またサウナに十分。二セットで終了です」
軽いシャワーの後、速水はサウナルームに案内された。レオンはワックス脱毛らしい。

小さな脱衣所に、ごく簡単なロッカーが設置してある。
サウナだし、タオルは脱ぐ必要は無い。速水はタオルを二枚取った。

速水は一つ目の引き戸を開けて中に入って、そして閉めた。
少しスペースがあって、その次にもう一枚の引き戸。熱が逃げないように、二重になっている。速水は引き戸を久しぶりに見た。扉は木肌を生かした丈夫な木製。磨りガラスはない。

…今ごろレオンは大変な思いをしているだろう。
速水は今は亡き祖母、そしてジャックと、その妹で元弟のリサの教えを守り、脱毛は欠かしてしていなかった。
用意してくれたエリックにも感謝しないとな。

 
…やはりサウナは熱気が凄い。
構造は日本とあまり変わらない…。広さは六~八畳ほど。奥は階段状になっていてその部分も木で出来ている。
床は黒の石材で、正方形、一メートルくらいの間隔の白い筋が入っている。奥の階段のすぐ下にはすのこが並べてあったりして結構立派。タオルを敷いて数名が寝そべる事ができそうなスペースもある…。まさしくお洒落なサウナだ。

「あつい…」
速水は奥の一段目にタオルを敷いて座り、しばらくダラダラと汗を掻く。
十分か…。レッスンという扱いのせいか、いちいち細かい。

ハッキリ言って苦行。だが耐えるしかない…。
ダンサーになる為に、これが本当に必要なのか?と、少々疑問を持たないでも無い。

上に設置された時計は結露していてよく見えない。その下に温度計がある。
今何度くらいだろう?


速水は立ち上がった。

 
■ ■ ■


レオンは死にそうな思いをした。
「死ぬかと思った…マジで脱毛は大切だな…ここアンダーでも。いや、昔はしてたが…」
フラフラと色々押さえながら歩く。

「次はシャワーとサウナか、ん?案内いないな?」
周囲を見ると、誰もいない。

確か、さっき終わる時に「次は隣の部屋へどうぞ」と言っていた。
レオンは特に疑問も持たず、次の扉を開けて、七つ並、スポーツジムのようなパーテーションで区切られた簡易シャワーを使った。
サッパリして出てみると、正面、つまり先程入って来た壁の真ん中あたりに、分かりやすく『サウナルーム →』と書かれた案内がある。

レオンはサウナルーム前の脱衣所、その扉を少し開けて熱気に驚いた。
「うお。まあこんなもんか」
もやもやと、煙のような白い蒸気がただよっていて。そして。

 
脱衣所の床に、速水が倒れていた。


「っ!?おいハヤミ!?」
レオンは慌てて駆け寄った。

うつぶせ、汗だくでタオル一枚。抱えて起こすと、がくんと首が反って、重たい。
「ハヤミ?!おいしっかりしろ」
レオンは速水の頰を叩いた。


一瞬、愕然とする。
「…おいっ!?おい!」
我に返り、また何度か強めに叩いたが。全く反応が無い。

顔も体も真っ赤だ。完全にのぼせている!?
レオンはすぐに抱え上げシャワールームへ走った。
シャワースペースの扉を体で開け速水を下ろし、シャワーの蛇口をひねり冷水をぶっかけた。

上部からのシャワーが速水にザァッと注ぐ。

レオンは膝をついて、ぐにゃりと倒れていた速水を起こし揺さ振った。すると少し目を開けすぐだらりと崩れた。
「おいしっかりしろ!」

その後全く動かず、意識が混濁している。

「誰か!!いないのか!」

■ ■ ■


「脱水と、熱中症ですね…危なかったです」
エリックは言った。
速水はしっかりのぼせてしまった。

「…」
今、速水は部屋でベッドに横になって、氷漬けになり、点滴を受けている。

「レオン、どう言う状況だったの?」
ベスはまだフリートレーニング中なので、休みのノアが適当な紙で速水に風を送りながら聞いた。
速水はまだ唸っていて、話を聞けそうに無い。触るとものすごく熱い。

レオンも同じく、段ボールの切れ端で速水をあおいでいる。

「俺が速水と別れて、脱毛してて、その間、多分ずっとサウナに入って―うっかり、…とかか?途中で出なかったのか?」
レオンは首を傾げた。

ちょうどその時速水が呻いた。
「…う、ぁー、くそ、鍵が……」
がく、とまた寝落ちした。

一時間後。

「まず、サウナが故障してたんだ」
起きた速水はベッドに入ったまま、スポーツドリンクを飲みながら、レオン、ノア、エリック、そして遅れて戻って来たベスに状況を語った。

あの時。

速水は立ち上がった。
『それにしても、暑いな…。今何度だ?』
湿気で声も籠もっている気がする。

何故かだんだんすごく暑くなってるような気もする…。

そして、部屋の右の壁にあった温度計、湿度計を見て速水は首を傾げた。
『室温32℃、湿度60%』…?絶対もっとあるだろ。それに普通サウナって80℃とか、90℃とか。

その時。
カチャン!と音がした。

速水はそちらを振り返った。
今、鍵を掛けられた…!?

『ちょっと待て!』
速水は直ぐに駆け寄って、だがそこでガチャと慌ただしく、二個目の鍵がかけられた。

『おい!今出るから!』
扉を叩き叫ぶが、…もう開かない。


『!!おい、誰か!?居ないのか?―レオン!』
ガチャガチャと思いっきり引き戸を引っ張るが、びくともしない。

『おい!助けてくれ』
そろそろヤバイので速水は暫く叫んだが、声は届いていないようだ。

サウナに閉じ込められた!?

…暑さで血の気は引かないが、これほどヤバイと思ったのは久しぶりだ。

――誰だ!サウナルームの引き戸に鍵を付けようなんて言ったヤツ!!
普通付けないだろ!?
――内線の類いも、緊急ボタンも無い!?付けとけよ!
『…落ち着け、バリスタは常に冷静に…』

速水は扉とその鍵を見た。よし、壊そう。


「――で、扉は壊れなかったけど…、サウナルームを探したら、誰かの忘れ物があって、ヘアピンが何本か。…それで鍵を開けた。けど手間取って…脱衣所にでて、扉を閉めて…閉めたか?…よく覚えて無い」
「はぁ…お前そんなスキル持ってたのか。まあ良かったが…」
レオンが言った。
「ほんと、ピッキングを教えてくれた隼人と、あと俺の前に使った人に感謝だ。サウナに桶があって…色々入ってた」
言って、速水は首を傾げた。

頑張ったが扉は壊れない…何か無いかと探した速水は、サウナの片隅に置き忘れられていた風呂桶一式を見つけた。銭湯に行くときのような。
その中にちょうど良いヘアピンがあった。

それにしても誰が?
速水はベッド脇に置いた、赤いピンを眺めた。無意識に一本掴んでいたらしい。
掃除されていなかった、という事は午前中、サウナを使った人の忘れ物…?

ヘアピンの先端を桶や櫛や軽石で加工して何とか…。開いたのは奇跡だと思う。
…引き扉の鍵がそんなに高度な物で無くて良かった。

「なあ、エリック、シャワーとかサウナって男女別だよな」
速水はエリックに尋ねた。
「ええ。建物自体は同じですが、男女の階層が分れています。ですがエステは…通常、50位以下チームの男性のメニューには無いハズです」

エリックは眉をひそめていた。
「そうなのか」
となると速水の恩人は…赤いヘアピンを使う、上位の男性?
ダンサーだし、赤ピンを使う人もいるかもしれない。
命の恩人だ。もし見つけたらお礼を言おう。

「エステがあったのって、最近、海外遠征メニューになってるからかしら。…でも誰が?」
ベスが言った。
「誰が鍵かけたのかって?明らかに殺しにかかってるよな。ノアの事と言い…」
レオンもまだ半信半疑、という様子だが言った。
「何でかな?」
ノアも不思議そうだ。今までこんな事は無かった。

エリックは気遣わしげな顔をしていた。
「…とにかく、ハヤミ、良く気を付けて下さい。上にはすでに報告してあります」
速水は神妙に頷いた。
本当に死ぬ所だった。熱中症は恐い。…速水の祖母はそれで死んだのだ。

「それと、ノアの件ですが…、ノアの食事には何も入っていませんでした」
「うわ。じゃあやっぱり、俺じゃなくて、ハヤミが狙われたの?」
ノアは言った。つまりノアは完全にとばっちりを受けた形だ。

「ええ、あまり詳しい情報は聞き出せなかったのですが……、異物が検出されたのはデザートの容器からでは無く、ハヤミのグラスからだったそうです」
エリックの言葉に、速水とノアは顔を見合わせた。

「そう言えば。俺は飲んでない」
速水は言った。
あの時、速水はたまたまカップで紅茶を飲んでいた。久しぶりに、と思って…。

速水の隣でノアがはっとした。
「…あ!俺そう言えば、自分の水が無くて…最後に飲んだ!」

近頃の食事の際は、水まで注いで貰える。そしてテーブルに水差しが置かれる。
――ノアはプリンを食べた後、自分の水を飲み干し。
まだあと一口くらい水が欲しかったが、注ぐのも手間だった。
見ると速水の分の水が手つかずで残っていたので、ノアはこれでいいやと思って一口飲んだ。

「やばいな。水かよ」
レオンが言った。何となく、プリンより真剣だ。

「致死性の薬物でなくて良かったですが…、これはその後、を狙ったのかも…」
エリックが言った。
「そのご?」
ノアは怪訝そうな顔をした。
「ああ、いえ―、運ばれた先で、トドメを刺そうと言う…」
「げっ」「穏やかじゃ無いわね…」
ノアが固まって、ベスが言った。

速水は首を傾げた。
「心当たりは全く無いけど。何で俺なんだ?」
そしてまた首を傾げる。

「いや。心当たりは…あると言えば―山ほどあるぞ…ハヤミ。お前、何かまた恨み買ったんじゃないのか?」
レオンが速水を見て少しニヤつきそう言った。
「あら、もしかして。少し前にハヤミがボコボコに殴った人じゃない?…クイーン・エリザに暴力を振るってた…」
ベスが言った。
速水はベスの意見を真剣に聞いた。
けどあの扉は…そういうのじゃなくて、もしかしたら運営が…と言おうとしたが。頭が少しくらついた。
「あ-、あの腐れキング?あれはもう良いだろ。スカッとしたし。けど、あの人しつこそうだよね。それよりベスのお尻触った人じゃない?」
「ノアの腰触った人じゃ無いの?ハヤミがやっぱり殴った…」
「あれかーどうだろう」

「ん?おっ」
レオンが少し眉を上げ、パンと、膝を打って立ち上がる。
何か分かったのか?
速水と、ノアベスがそちらを見る。

「ハヤミが殴ったオッサンかもしれないな」
「それだ!」「そうかもしれないわ」
まだ少しクラクラしている速水の側で、三人はワイワイと盛り上がった。
…この三人は悪ノリさせると長い。
「――とりあえず、俺は気を付けるから。皆はとばっちり食らわないように気を付けてくれ」
速水は頭を押さえてそう言った。

そして思い出し、エリックを見上げる。
「そうだエリック、サウナに桶が忘れてあったから、持ち主に返しておいてくれ」
「分かりました。どうぞゆっくり休んで下さい」
「ああ」

…ヘアピンの持ち主が分かったら、お礼しないとな。
エリックが微笑み、速水はそう思って目を閉じた。

〈おわり〉

 

で、この後、ピンを忘れた他チーム目線の話につなげようという魂胆です(^^;)

もし連載するなら色々修正してちゃんと初めからまた新しくアップします。

 

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まあこちらも良かったらどうぞ。カクヨムで先に少し異能編やってます。ブログ版は次話の表紙を描き中。私もよく分からなくなってきたので、ネットワークのバトル細かい設定とかまとめたいですね。では。

 

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